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第226話「舌打ち」*大翔

「……奏斗の気分転換になるならいいかなとは思うし」  オレが言うと、葛城は少しだけ間をおいてから。 「気分転換をしないといけないような何かがあるんですね……」  そう言われて、余計なこと言ったなと思ってしまう。 「……とにかく奏斗に聞いてみて、連絡する」 『あ、大翔さん』 「ん?」 『……見合いとかの話、そこでも出ると思いますからね』 「……オレにそういう話があるのは、奏斗、知ってるし」 『――――……大翔さん』 「……何?」 『雪谷さんとはどうなりたいか、考えましたか?』 「――――……またそれ?」  どうなりたいと聞かれても、まだはっきりは答えられない。  ……ただ、そばには居たいけど。 『あなたの求めているのは、本当にどこなのかと思いまして』 「――――……奏斗はまだ前の失恋引きずってるし。辛そうなのがほっとけない。って感じ……?」 『――――……でしたら、本気で考えてみてくださいね』 「何を?」 『雪谷さんがその失恋を乗り越えた時、あなたがどこに居たいのかを』 「――――……」 『乗り越えて元気になったらもう放っておけるなら、こちらの方々とも一度くらい会ってください。それで断るなり気に入るなり、それはお任せしますから。大変なんですからね、私のところで止め続けるのも』  苦笑いの葛城に――――……とりあえず、分かった、と伝えた。 「……パーティーの件は聞いたら連絡する」  そう言って、葛城との電話を切った。  ――――……失恋を乗り越えた時、か。  元の鞘に収まるっつー可能性も、まだ、ゼロじゃねえしな。  スマホをテーブルに置きながら、そう考えて……。  イライラする。  あー。ムカつくな。  やっぱり、無理かも。それ。  ――――……オレの目の前で和希と話させて、絶対、より戻すなんて話は拒否らせて。  ……と、思ってしまうが。  それもやっぱり奏斗が決めないと、あとでまた後悔しそうな気がする。 「――――……」  やっぱり、分かんねえな。  オレには、よりを戻したいと思うような相手も居ないし。  なんなら、名前と顔すら一致してねえかも……。短かった奴とか、覚えてないし。……あんな風になる位、好きになったことが、ない。  そんなに何年も好きな奴を、どうしたら忘れるのか。  うんざりしてきたその時、テーブルの上のスマホがまた音を立てた。  ディスプレイの名前は奏斗で。首を傾げてしまいながら受けた。 「もしもし、奏斗?」 『うん――――……』 「……? どうしたの?」 『ごめん、ちょっと用事、あって』 「用事?」 『うん。用事……』 「今、外なの?」 『うん、外……今日、ごめん、帰るの遅いと思うから、行けない』 「――――……どんな用事?」 『……別に和希じゃないから。心配しないで』 「……今どこ?」 『また、連絡するから』  言おうとしない。  ため息が出そうだ。 「――――……奏斗」 『ん?』 「……待ってるから、こっちに帰ってきてよ」 『――――……』 「……あと、気を付けて」 『うん…………でも、今日は、そっちには行かない』 「……でも、待ってる」  所々で返ってくる沈黙と、奏斗の声の出し方から、嫌な予感しか、しない。  でも、きっと、今詳しく聞いたって、多分、言わない。 『ごめん、夕飯……』 「いいよ。そのかわり、奏斗」 『――――……』 「気を付けて」 『……うん。じゃ、ね』  切れた。  ――――……つか。  ……帰すんじゃなかった。  ち、と舌打ち。 「――――……」  今考えてるのが、違うなら、それでいいから。  ――――……とりあえず、行ってみるか。  行って、運よく見つけたとして  ――――……止める権利があるのかどうかすら、分からないが。  そんなことを思っているくせに。  速攻で家を出た。

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