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第227話「声が」*奏斗

 ――――……クラブに、来てしまった。  変な飲み物は飲まない。  リクさんの側に居る。トイレも一人で行かない。  それだけ決めて、中に入った。  ――――……いつもみたいに、すごく相手が欲しいとかじゃなかったけど。  ……なんか。良い人がいるなら、それもいいかなと、思って来たような気がする。  なんか……。  ……めちゃくちゃ抱いてくれる人がいるなら、それでもいいかなと。  ――――……でも実際ここに居ると。  四ノ宮が浮かんで、危ない人についてったら、心配するかなと思うと。  ……うーん……。なんか。  前みたいに、良い男をゲット……みたいな気分になれない。  ――――……体だけで良かったのに。  一時、気持ちよければ。  一時、忘れられれば、すぐ日常に戻れた、のに。  どうしようもなく寂しい気分の時、オレに熱くなって、抱いてくれる人がいれば、少し救われた。  ……それで、良かったのに。 「今日はどうしたの、ユキくん」 「……どうしたって何ですか?」 「誰ともしゃべらずここに居るから」 「――――……なんか色々もやもやしすぎて……来たんですけど」 「うん」 「……いざ来たら、なんか――――……気分乗らなくて」 「そっか。……そういう時は、やめといた方がいいかもよ?」 「そう、ですか?」 「うん。経験上」 「……リクさん、こんな感じ、経験ありますか?」  クス、と笑ってリクさんに聞くと。 「色んな人を見てきた、経験上、ね?」 「あ、なるほど……」  それなら納得。  一人頷いていると、お酒を作りながら、リクさんがオレを見つめた。 「……今日、彼は?」  一瞬考えるけど、リクさんとの間で使われる「彼」は、一人しか居ない。 「……四ノ宮ですか?」 「うん」 「……ここに来るって伝えてないです」 「まあ、そうだろうね、伝えたら、ユキくんがここに居るわけないし」  クスクス笑われて、オレは俯いた。 「……別に四ノ宮は、恋人とかじゃないんで」 「うん。まあ、そうなんだろうけど」 「――――……オレのこういうの、全部言う必要はないし」 「……うん。まあ、そうだね」  言いながらも、リクさんが少し首をかしげて苦笑いを浮かべる。 「四ノ宮くんは、全部言ってほしそうだけど」 「――――……」 「ここに居るのバレたら、どうなると思う?」 「……怒るかもだけど……言わないですし」 「そういうのユキくんが隠せると全然思えないんだけどね」  クスクス笑われて、返答が浮かばない。 「だから、誰のところにも行かないの?」 「……別に、だからってわけじゃ、ないんですけど……」  リクさんは、ふ、と周囲に視線を走らせてから、オレを見つめ直す。 「ユキくんを見てる人は居るから、その気なら相手はすぐ居そうだけどね」 「――――……」  ……まあ。  …………オレ、そういうのは、モテるから。  ……相手、見つからなかったこと、無いし……。  でも、気を付けて、て。二回も言われた。  ……もしかして、分かってんのかなと。  思ってしまった。  ――――……あの声が、なんか、残ってる。

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