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第231話「怒ってない?」*奏斗
……怒られると、思ってたんだよな……。
流れてく景色を見つめて、かかってる音楽をなんとなく聴きながら、ぼんやりと考える。
……クラブに行ったのバレたら、四ノ宮、怒るだろうなと思って。
あと……嫌な気持ちになるかなと、思って。
「――――……」
何でそんなこと、思ったんだろう。
オレのことは、四ノ宮には関係ないのに。
……四ノ宮は、別に、オレの恋人でもないし。
――――……別に……オレを好きなわけでも、ないのに。
実際、あんまり怒ってないみたいだし。
「今何考えてる?」
「……ん?」
「奏斗、今何考えてた?」
「――――……オレがクラブに行ったって、四ノ宮にバレたら、怒られると思ってたの、オレ」
「……うん」
「……どうしてそう思ってたんだろうって、思って」
「どういう意味?」
「――――……だから。四ノ宮が怒るなんて、何で思ったんだろうって……」
四ノ宮は少し黙っていたけれど。
「……なんでって、何?」
「だって別に、四ノ宮が怒る必要ないし……」
オレが言うと、四ノ宮は、なんだかちょっと首を傾げてしまった。
「……えーと……? よくわかんないんだけど……」
「――――……?」
「今オレが、怒ってないと、思ってんの?」
「……怒ってないよね?」
「――――……」
しばし、無言。
ん? と四ノ宮を見ていると。
「まあ確かに――――……あんたが一人で出てきたから。まあいっか、と思ったというか……ちょっと嬉しかった、というか……それはあったけど」
「――――……」
またそこで、無言。
「……何か……もしかして、オレが奏斗のことで怒るとか無いんだなとか、今そう思ってたりするってこと?」
「――――……」
……確かにそうなんだけれど。
…………別に恋人とか、好きとか、そういうのないんだから、心配はしてくれてるかもだけど、そんな、怒るとかはないんだなと、思ったのは、確かなんだけど。
……なんだか、頷くのに躊躇う空気が、流れてるような……。
「……はは。なんつーか……」
「――――……」
「奏斗は、変なとこ鋭いのに――――……自分に絡むことには、すっごい鈍いよな……」
苦笑いで、そんなことを言って、そのまま、無言。
「……オレ、許してあげる、て言ったよね?」
「――――……」
「……じゃあさ、オレがクラブを覗きに行った時、奏斗がリクさん以外と居たら、どうしてたと思う?」
「……分かんない」
「……分かんないの? ほんとに?」
「……うん」
「はー……。なんだかなあ、ほんと……」
四ノ宮はめちゃくちゃ大きなため息をついて、そのまま無言で、車を走らせている。
「――――……」
ええと。
……何か言った方が良いような。下手に話さない方が良いような……?
と、思っていたら、四ノ宮が息をついた。
「……覗いた時、リクさんのとこに居たから、オレ、冷静に外で待ってられたんだけどね。違う奴んところで超楽しそうにしてたら……もしかしたら、そこで修羅場したかも」
そんなセリフに、とっさに何も返事が浮かばないまま。
……てことは、四ノ宮はやっぱり、そういうので、怒るってこと??
「――――……オレとの食事の約束捨てて、あんなとこ行ったの、怒ってないと思うなら、違うよ」
「――――…………」
「……奏斗が何しても関係ないから、オレが今怒ってないと思うんなら、大間違いってことなんだけど。……意味、分かる?」
「――――……」
少し強い口調ではっきり言われてしまい、とりあえず、小さめに、頷く。
「オレ、あんたが大事だから。おかしなことしたら、すげー怒ると思うけど」
「――――……」
……大事。だから。
――――……大事だから……。
「分かっててよ」
ため息交じりだけど、なんだか、ふ、と笑われて、見つめられる。
一応頷いて。
……そのまま、マンションに着くまで、黙ったまま、過ごした。
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