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第234話「気持ち悪くない」*奏斗

 コーヒーを飲み終えて、二人で食器を片付けると、すぐ歯ブラシを渡された。 「寝る準備。しよ?」 「……ん」  もう渡されてしまったので、否応なく歯を磨いて、タオルで口を拭いたところで。 「トイレは?」 「さっき行った」 「ん、じゃあ……ベッド行こ」  手首を掴まれて、引き寄せられる。 「――――……」  この流れだと、完全に一緒に眠ることに……。  どうしたらいいんだろ。  ……オレいつまで、ここで寝んの? 今日寝たとして、明日は? 明後日は? ずっとな訳ないし、だったら、今日ここで寝る意味なんて無いし。家帰って、寝た方が良いし。 「しの――――……」 「奏斗」  呼びかけたのを遮られて、四ノ宮がオレの手首を掴んだまま振り返る。 「……?」  まっすぐ、オレを見つめたまま。 「奏斗。考えて、答えて」 「――――……?」  うん、と頷くと。 「死ぬほど嫌じゃないなら、オレ、今から奏斗を抱くから」 「――――……え?」  ……抱くから? 「何も考えられなくさせてあげるよ。クラブなんて、行きたいって思えないように」 「――――……オレ、今、もう思ってな……」 「さっきは、思ったんだろ?」 「――――……」  遮られて、そう言われる。   「オレね、やっぱり、すげえ怒ってンの」 「――――……」 「一瞬でも、クラブ行こうなんて思った奏斗のことも……そう思わせた、自分のことも」 「――――……」  ……そう思わせた、自分……??  ……よく、分かんない。  眉を顰めて、四ノ宮を、見つめる。 「……あんたのそれは、必要なことなんだろ。今までずっとそうしてきたんだから、そうしたくなるのは分かる気がする。だから。オレがしてあげなかったのが悪かったとも、思ってる」 「別に……四ノ宮が悪い訳じゃないし……ていうか、関係、ないし……」 「関係なくない」  手首は掴まれたまま。  もう片手が、オレの頬に触れた。 「今更、関係ないとか、言うなよ」 「――――……」 「もう今、世界中で一番、関係ある人だから」 「――――……」 「だから。奏斗が、嫌じゃないなら、抱くから」 「――――……何で……」  どうして、そんな、ことまでしようとすんの……。  全然。意味が。分からない。 「死ぬほど嫌じゃなければしよ。――――……嫌じゃないよね?」 「……」  オレは元々、知らない人とも、一回限りで抱かれてきたんだし。  気持ちいいことは、好きだと思ってるし。  ――――……抱かれて、発散させて……きたんだし。  だから、死ぬほど嫌とか……ある訳ない。  でも。  ――――……一回限りの人とするより……四ノ宮とするなら、色々考えないと、いけない、筈。 「……何でって言われても――――……そうしたいからとしか、言えない。意味なんか、一緒に居る間に考える。オレ、離れる気ないから」 「――――……」  考えないと――――……ほんとは、いけない筈、なのに。 「奏斗、オレと離れたい?」 「――――……」  まっすぐな、瞳。 「オレのことが嫌すぎて、もう一切近づかないで欲しい? もしも今そう思うなら、もちろんしないし……離れる。けど……」 「――――……」 「本気で嫌なら、だよ」 「――――……」 「オレのことが、本気で嫌で、離れてほしい?」  見つめていると、ますます眉が寄ってくのが分かる。  そんな訳、ないじゃん。本気で嫌で、疎ましい奴と、こんなに居る訳無い。そんな聞き方はずるい。――――……と思うのに。  なんて言っていいか、分かんない。 「――――……はい。時間切れ」 「……え?」 「離れたくないってことで、了解」  ふ、と微笑む四ノ宮の手が、頬から顎にかかって、上向けらせられる。 「――――……」  キスされて。ゆっくり、唇が、離れる。 「――――……てことで……よそに行かないように、オレと、しよ」  至近距離の四ノ宮をじっと見つめる。  もう、マジで、意味が、分からない。  分からないけど――――……  一緒に考えるって。離れないって言うのが……。  なんか、耳に残って。  寝室に向かって手を引かれながら。それを振りほどけない。  でもやっぱり。 「四ノ宮、オレ、ほんとに意味分かんない……」 「……あー。……そーだね、正直、まだオレもちゃんとは、分かんない」  歩きながら、四ノ宮が振り返る。 「……でも、そのうち分かると思う」 「――――……」  寝室の前で一度止まって、四ノ宮がオレの背中に手を置く。 「部屋入ったら。オッケーと取るから」  四ノ宮の手が、背中に触れて、そっと、軽く、促される。  背中に置かれた手が。 「――――……」  ――――……四ノ宮のは、気持ち悪く、ない。    何でだか、拒否れなくて。ぎゅ、と目をつむったまま、一歩足を踏み入れた瞬間、引き寄せられて、キス、された。

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