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第237話「覚悟」*大翔

 夜が明けてきた。  少し寝たけど。だるい。  昨夜、ずっと、抱いてたもんな……。  腕の中で、ぐっすり眠ってる奏斗を見ながら、その頬に触れる。  ――――……分かったかも。オレ。 ◇ ◇ ◇ ◇  昨日、夕食を断られてすぐ、クラブに向かった。中に入ると、奏斗がリクさんと話しているのをすぐに見つけた。  やっぱりここに居たということに、一瞬めちゃくちゃムカついたけど――――……でも、リクさんと居るから、乗り込んでいくのはなんとか留まった。五分くらいは見ていたけど、全く動こうとしないし。  少し落ち着いて、オレは店を出ると、歩道の端、出入り口が見える位置に立った。  ――――……奏斗がここに来たのは、オレ的には、すごいムカつく。  でもこれは、結局奏斗が決めることで、誰かに抱かれたいというのも、奏斗の選ぶこと。  オレに、止める権利なんか、ない。  ただの後輩で、ただの、隣人。  ――――……最近無理やり一緒に居たけど、関係は、それ。分かってる。  でも、このムカつきを一体どうしたらいいんだ、もし奏斗が、誰かと一緒に出てきて、ホテルに向かうなら、どうしてやろうか、などと、ムカつきながら、考えていたら。  しばらくして、奏斗が出てきた。ふ、と息をついて。それから、スマホを見て、何か考えてる。  ――――……一人で出てきた、というところが、まず重要。    誰とも、一緒じゃない。  なんか、それだけで――――……ムカつきが、一瞬で解けた。  奏斗の目の前に立つと、ちょうど歩き出そうとした奏斗が、不審げにオレを見上げて、ぽかん、と呆けた。  ――――……あぁ、なんか。……すげぇ、可愛いし。  なんなの、これ。  こんなとこに、それ目的で来てる人が、こんなに可愛いとか。  また少しムカつきながら、でも、息をついてから、相手のことを聞いたら。  相手は、見つけなかった、帰ろうとしていた、と言う。  即、気を良くしたオレは、奏斗を連れて車に戻った。  奏斗と、色々話しながら、頭んなか、整理する。  クラブに行ってたのは腹が立つ。でも、乗り気じゃなくて一人で出てきた。  前回の経験が嫌だっただけかもしれないけど……それでも良かった。  でも。  少し機嫌が良くなってたオレに、怒っていないのが奏斗のことが関係ないからだとか、そんなようなことを、言いやがった。  ……まためちゃくちゃ、腹が立ってくる。  何言ってんのかな、この人。    関係ないと思ってる奴、何でオレが、土曜の夜に、こんなとこにまでわざわざ迎えに来てると思ってんの。  関係ないから、怒らないとか。ほんと何言ってんだろ。  めちゃくちゃ怒ってるからな、ほんとは。  オレにそんな権利がないと思っていただけで。    ……変なところでは鋭いのに、自分のことになると、すげえ、鈍い。  あと、なんか、考え方がおかしい。  なんか、すごく、自分ていうものを、大事に思ってない。  ――――……人にとって、大事な存在じゃない、とでも思ってるみたいな。  ……好きだけど無理って言われて捨てられると、こうなんのか?  それでも好きだって言われてたんだって風には、少しも考えねえの?  ゲイは無理だけど、奏斗のことが好きすぎて、引っ越すタイミングでしか別れられないって――――……むしろ奏斗のことは、大好きだってことでは、受け止めれねえのかな……。  あー……なんかもう、色々ムカつくけど。  ……これを今まくしたてたって、きっと、奏斗には分からない。  何て伝えようと考えた末。  一番強く思うことだけを、伝えることにした。 「オレ、あんたが大事だから。おかしなことしたら、すげー怒ると思うけど」  そう言ったら、なんだかすごく驚いた顔をして。  それからずっと、車の中では、無言だった。  ――――……すごく考えて言いたかったのが、それだったってことに、自分でも、まあ……色々思い知って、オレも黙っていた。  夕飯を食べてる間も、奏斗はずっと何かを考えた顔をしてるし。  ……大事って、言っちゃったからかな。  言わない方が、良かったか?  ――――……オレは、今まで、奏斗には、なるべくそういうことは言わないできたはず。  自分でもよく分かってないっていうのもあったが。  どうせ和希を吹っ切れないから、適当に体だけ満たしてる。  そんな人に、大事だからなんて言ったら、絶対、拒否られると思ったし。――――……そんなのは要らないって言われると思ってきたから。  ただ、ほっとけないから、相手をする、なんて言って。  ……正直、自分でだって、意味わかんないのは、分かってる。  奏斗が、オレを宇宙人とか言うのだって、なんとなく、理解できる。  でも――――……なんかこのままだと。  オレの心配も、大事だからこそ持つ怒りも、全部、奏斗には、何も伝わらない、と思ってきて。  それじゃあ結局、和希には何も勝てねーんじゃないかと。  シャワーを浴びて、色々考えていたけれど。  だんだん、覚悟が決まってきた。

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