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第240話「このままずっと」*大翔

「奏斗、オレ……」  誰かと付き合うなら身を引くと言ったこと。  もう、引いてあげられないと思う。  そう言おうと思った時。 「よく、分かんないよ」  奏斗は、腕の中で、困ったみたいに言った。 「ん? ――――……何が分かんない?」  そう聞くと、奏斗は、オレを見上げた。 「オレ、もう誰とも付き合わないって決めてるし……ていうか、別にオレと付き合いたいって訳じゃないんだし……全然分かんないんだよ、したいことが」 「――――……」  誰とも付き合わないって決めてる。  ……頑なだよなあ。と思う一方。理由も分かっているので、何とも言えない。……多分、こう思ってる今の奏斗に、オレが今、何を言ったって、あんまり意味がないのも分かってる。  でも。 「――――……付き合って、別れるのが嫌だからなら、さ」 「……」 「オレとは付き合わなくていいよ。ただずっと側に居るけど」 「――――…………ん?」  奏斗が、きょとん、として、オレを見る。 「付き合うとか決めなきゃ、別れも来ないよね」 「――――……?」 「大体オレ、あんたのこと、好きなとこばっかじゃないし」 「――――……」 「……昨日みたいな時、クラブ行くとことか、ほんと嫌い」 「――――……」 「可愛いと思って抱いてんのに、汚いとか聞いてくるとこも、マジで嫌い」  奏斗は、目をぱちぱちさせながら、オレを見てる。 「――――……でっかい瞳」  何だか軽く笑ってしまいながら、奏斗の頬に触れる。  ちょっとムッとして、奏斗が少しその手から離れた。 「オレ、あんたが、ちっちゃくなって座ってるのも……あんま好きじゃない」 「――――……」 「和希にこだわって、今を見てないあんたも、好きじゃない」 「別に……こだわってなんか……」  言いながら、不意に奏斗が、ふ、と笑った。 「四ノ宮は、オレのこと、嫌いなの?」  そんなセリフを、どうしてそんなに楽しそうに言うのか、ほんと意味が分からないところも――――……あんま、好きではない。 「……嫌いなとこは、結構あるよ」 「――――……そう、なんだ」  何を思ってるのか、頷きながら、オレを見つめてる。 「……でもオレ。あんたに嫌いなとこがあっても……一人で居させたくないし、オレが一緒に居たいってすげえ思うから」 「――――……」 「だから、ずっと居るって思ってるのは、ほんと」 「――――……」 「とりあえず、付き合わないんだから、別れもないって思ってて」 「――――……なんか……ほんとうに、意味が、分かんない」  なんだか不思議なものを見るような感じで、オレを見つめてから。  それから、また、クスクス笑った。 「じゃあ、オレが……考えが変わって、急に誰か他の奴と付き合うって言ったら、どうすんの?」  ……そう来るか。  付き合う気なんかないくせに。  ……あくまで、いつか離れるって言わせたいみたいな。   離れるって言わせて、どうせ離れるんだって、思っておきたいんだろうか。  ほんと、よく分からない。 「――――……別にオレと奏斗が付き合ってないなら……。あんたが誰と付き合おうと、オレはただの知り合いなんだから関係ないでしょ? オレは、オレの居たいように居る」 「――――……オレが誰かと付き合うまでは居るって、言ってたじゃん」 「ああ、だからそれ、さっき訂正しようと思ってた」 「――――……」 「誰かと付き合うなら身を引くと言ったことをさ。もうそんな簡単には引いてあげられないと思うから覚悟してって言おうと思ってたら、奏斗がよくわかんないとか言い出したんだよ」 「…………」  何か言おうとして、でもまとまらないみたいで、奏斗は黙って、オレを見つめた。   「……縁、そんな簡単に切れると、思わないでよ」  そう言って、見つめていると。  少し、む、と唇を噛む。 「全然意味、分かんない……」  瞬きをパチパチしながら、奏斗はオレから視線を離して俯いた。 「……オレと奏斗なんて最初から色々変なスタートじゃん。意味分かんなくていいんじゃない?」  そう言うと、奏斗はちら、とオレを見て。  ふ、と笑んだ。 「……確かに、そう、かも――――……」  笑みを浮かべたその唇に触れたくなって。  奏斗の顎に手をかけて、上げさせる。  一瞬固まったけど、そのまま、抵抗はされないのをいいことに。  キスした。  触れるだけだったつもりが――――……なんだか深くなってしまう。  舌を絡め続けてると。奏斗の手が、キスを遮ろうとしてくる。   「し、つこい……」 「……ん。わかってる」 「…………っん……」  わかってるけど。  やめる気、ないんだよね。  その手を押さえて、本気でキスをし始めると。  ――――……諦めたように、力が抜ける。  このままずっと、ここに居ればいい。   

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