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第242話「拒めない理由」*奏斗
――――……なんか……。
また、抱かれてしまった。朝から。昨日、あんなに抱かれたのに。
……もう。ほんと。もう。
――――……抱かれて、寝落ちて。気が付いた時には、抱き寄せられてて。
それからしばらく経つけど。
……ひたすら寝たふりをしているのだけれど。
ほんとに、もうやだ。もう。
何でオレ、四ノ宮、拒めないんだっけ……。
しかも――――……あんなに、訳わかんないくらい、感じて、とか……。
ものすごい、恥ずかしいんだけど……!
泣きそう……。
思ってたら。抱き寄せられたまま。
奏斗、なんて、呼ばれて。
……オレ、寝てることになってるのに。
…………四ノ宮って、オレが寝てる時、こんな風に呼んでるのかな。
今たまたま? ……分かんないけど……。
もう。……なんなんだ。
抱き寄せられてて、顔を見られていないのをいいことに、ひたすらじっとして、寝たふりを続けていると。
かなり経ってから、そっと離されて、四ノ宮がベッドから立ち上がった。
着替えてるっぽい音。オレは壁際を向いてるので、四ノ宮のことは見えない。多分着替え終わった四ノ宮が、なんだかまた近づいてくる気配。ぎし、とベッドの端が軋んで……オレの頭に手が置かれた。
「――――……」
少しの間、そっと――――……多分、起こさないように、すごくそっと撫でられて。
四ノ宮は部屋のドアを閉めて、出て行った。
「――――……」
……なんなの。マジで。
自分がされてることを、よくよく思う。
しかも、オレが、寝てると思ってる四ノ宮が。
……オレにしてることを、考えると。
なんか、めちゃくちゃ恥ずかしくなって。
顔が熱くなる。
「――――……っ……」
手の甲で頬に触れると、熱い。
なん、なの、マジで。
……なんか知らないけど、恥ずかしすぎるんだけど……。
四ノ宮って。
……ほんとに。意味が、分からない。
――――……何でそんなに、オレと居たいとか。
言うんだろ……。
正直、なんか、色々知られすぎて。
……四ノ宮にとって、オレって、相当変な奴というか……。
なんかもう、どうしようもないなあと思われてそうなレベルなのに。
さっきだって、嫌いなとこ、いくつも並べられて、そうだろうなと納得してるのに。
それでも、何度も何度も、側に居るって繰り返す。
付き合わないから、別れも来ないって。
――――……簡単に縁が切れると思うな、だって。
……変なの……。
少し、顔の熱が、収まってきて。
でもまだ頬に触れたまま。
「ずっと居るって思ってるのは、ほんと」
四ノ宮の言葉が、頭に、よみがえる。
――――……ずっとって、何だろう。
大学の、間?
ここで隣に住んでる間?
……この年から見合いの話が出るような。執事さんが、居るような。
特殊な家の息子だし。
……ずっとな訳ない。別にオレ、ずっと居てほしいとか、望んでるわけでもない。
けど。
――――……なんか。
よく分かんないけど。
四ノ宮が、それを繰り返して言ってくれる、気持ちは。
なんか、嬉しい、ような気がする。
だから。四ノ宮がオレにしてくる何もかもを。
……本気で、拒めないのかも。
そんな風に、思う。
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