239 / 542

第243話「ムカつく」*奏斗

 色々考える間に、顔の熱は引いたけど、なんだかもう、起きる気がしなくて、ぐったり倒れていたら。結構経ってから、四ノ宮が戻ってきたみたいで、静かにドアが開いた。ドアに背を向けて、布団にもぐってるのをいいことに、動かずに居ると。 「奏斗……?」  四ノ宮が手をついたと思われるところが、ぎし、と軋んだ。  すぐに頭に、手が触れてくる。 「奏斗、起きれる?」 「――――…………」  ゆっくり振り返ると。  ――――……四ノ宮は、なんだか、すごーく、さっぱりした顔をしていて。  にっこり笑う。 「おはよ。一回、朝食べない?」 「……」 「食べても眠かったら、寝てもいいから」 「――――……起きる」  言いながら、体を起こすと、オレはまだ裸で。  ……下半身は布団に入ってるからいいけど。 「……そう? 寝ててもいいのに。ていうか、オレも一緒に寝るし」  ふ、と瞳を細めて笑うその感じが。  ……最初の頃、四ノ宮を胡散臭いと思っていた頃とは、別人みたいで、なんだかすごく、不思議。だってあれ、そんなに遠い昔じゃないし。  オレの見る目が、変わったのか、四ノ宮が変わったのか。  よく分かんないけど。  とにかく、笑い方が、自然すぎて。……何で、その笑顔をオレに向けるんだて思う位、優しい感じで。  ……やっぱり、とことん、意味が分からない。 「……宇宙人……」 「――――……は?」 「……て感じ。お前……」 「……はー?? 寝起きに、それを一番に言う?」 「――――……」  寝てないし。起きてたし。 「……っとにもー。何なの、あんた」  呆れたように笑って、四ノ宮が、ベッド下に落ちていたオレの服を、オレの布団の上に乗せた。 「ごはん出来てるから先食べよ? シャワー浴びたいなら後で浴びて?」 「……うん」  ……なんか昨日、オレ、ぐちゃぐちゃになってた気がするけど……。  拭いてくれたのかな。あんまりその形跡は無いような気がする。  「服、着て? 行こうよ」 「……ん」  頷くと、四ノ宮はオレを見下ろして、笑いながら、部屋のカーテンを開けた。 「置いてったら動かなそうだから着るの待ってるよ」  クスクス笑いながら、四ノ宮はベッドに腰かけた。  別に、すぐ行くのに。そう思いながら。でも待たれてるとなると仕方なく、服を着始める。  下着を身に着けてからベッドの端に移動して、ズボンをはいて、完了。  着終えた瞬間、手首を取られた。 「行こ」  言いながら振り返り、笑って見せてから、四ノ宮は歩き始める。   そのまま、引かれながら寝室を出て、洗面所に入れられた。 「パン焼いとく。顔洗ってきてね」 「……ん」  最後、背中をポンポンと優しく叩いて、四ノ宮は、姿を消した。 「――――……」  顔を洗って、タオルで拭く。  なんかほんとに――――……四ノ宮の顔を見るのも、恥ずかしい気がする。  オレがあんなに乱れることを、四ノ宮は、普通だと、思ってるんだよな。  ……きっと、いつも誰かに抱かれる時ずっとああなってたんだって、思ってる、筈。  ――――……そんなことは、ないんだけど。  ……正直、演技入ってた時もあるし。  毎回、すごく気持ちいいってよりは、わりと気持ちいいか、演技が必要かみたいな感じだった気がする。  ……ていうか。  四ノ宮とシてから、オレって抱かれてる時どうだったかを、ちゃんと認識したのかもしれない。  正直、和希としてた時のことは……いまいち参考にならない。大好きだったから、それだけでもう嬉しくて、気持ちよかったし。ああいうこと、覚えたてで夢中だったし。  和希と別れて、大学生でクラブに行くようになってからは。  ……演技もできるし、それがバレたこともないって思ってて。……快感を、わざわざ追おうとしてたし。触られれば気持ちいいし。快感はあった、と思うけど。  ……四ノ宮にされてる時は、演技しようとか、わざわざ追おうとか、一切してない。……ていうか、出来ない。  頭ん中、真っ白で。  次々気持ちよくて。どうしたらいいか、よく分からない位。  ……うまいのかなあ。すごく。  ほんと。……ムカつくなー。  ……なんでもできるって感じ。  四ノ宮にされてる時のオレが。他の奴にされてる時のオレと、イコールだと、思われるのが、何か、嫌だ。  いつもあんなに乱れてたのかと、思われると、もう恥ずかしいし。  ……でもだからって、四ノ宮にされてる時だけ特別なんていうのも、なんか…………いや、それは、もっと嫌な気がする。  ……これ、どうしたらいいんだろ。  ――――……なんだかなぁもう……。 「奏斗、まだ?」  リビングの方から、四ノ宮が呼ぶ声。  ちょっと息をついて。――――……リビングに向かった。

ともだちにシェアしよう!