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第244話「胃袋」*奏斗
リビングに行くと、四ノ宮がドアまで来てて、オレの背に触れた。
「どんだけ綺麗に顔洗ってんの」
クスクス笑って、そんなことを言う。
「早く座って。食べよ」
オレが椅子に座るまでは背に触れてた手が、そっと離れて、四ノ宮も隣に座る。
この、背に触れられる感じ。
――――……昨日。クラブで声をかけてきた奴に、触られた時。
ぞわ、て。したんだよね。それは、ゾクゾクしたとかじゃなくて。ゾワゾワ。……嫌だったんだ、気持ち悪くて。
……別に嫌いなタイプじゃなかった。
顔、わりと良かったし。清潔感あって、嫌な感じはしなかったし。
強引な感じもなかった。
多分、前だったら、触れ方も、優しいし、ありかなって思ったはずだった。
「いただきます」
「うん。どうぞ」
目の前にあるのは、フレンチトーストで。めちゃくちゃ美味しそう。
「……何でも作れるんだね」
「ん? ああ、これは初めて作ったけど」
「そうなの? すごい、おいしそうだけど」
「料理って、基本が出来れば、あとはレシピ見れば何でもできると思うけど」
「……器用だよね、色々」
「そう?」
……ほんと、なんでもできるよな。
思いながら、ぱく、と口に入れると。
「うま……」
甘すぎず。ふんわり、幸せな味。
「よかった、おいしい?」
「うん」
頷いて。なんだか、優しい笑い方に、どう対応していいのか困っていると。
目の前の唇が、ニヤ、と笑った。
「疲れたかなーと思って。昨夜と、朝もさ。ちょっとだけ、お詫びね」
「――――……」
疲れたって。
……恥ずかしいな、もう。何なの、お前。
そういうとこだよ、そういう、なんかヤな感じの所がなければもっと……。
ジロと睨んで、クスクス笑いながら自分も食べ始めた四ノ宮から視線を逸らす。
――――……もっと。
……もっと、何だろ?
はて。
思いながらも、モグモグ食べ続けていると。
四ノ宮がクスッと笑って、オレを見つめる。
「オレの作るごはん、うまい?」
「……うん」
それはそれは、とても。
「――――……そっか。よく、女が、胃袋掴むとかいうじゃん?」
「うん」
「オレんちの食事はプロの人が作ってたし、葛城もうまいしさ。だから、そこらへんの女に胃袋掴まれることはないなと、オレ思ってたんだけどね」
「はあ」
それはそれは。
何とも言い難い、現象だけど。
なんて思いながら、それもどうなんだろう、大変だななあ、と思って、ふ、と笑ってしまうと。
「でも、オレ、奏斗の胃袋はつかめるかもね」
クスクス笑って言ったセリフが、それ。
「――――……」
胃袋だけなら、若干、掴まれかけているような……。
そう思ったけど、なんかムカつくから、それは、言わない。
無言のまま、食べ続けてると、四ノ宮はまた何を思っているんだか、楽しそうだし。何かムカつくし。
……でも、美味しいし。
むー……。
「つか……オレの胃袋掴みたいの?」
そう聞くと。
ぱっとオレを見て、不思議そうな顔をした。
「当たり前じゃん。だから言ってるし」
「――――……」
当然、みたいな顔をされて。
伸びてきた手が、とんとん、とオレの胃の辺りに触れる。
「オレのごはんだけ食べたいってなればいいって思ってる」
「――――……」
触れられたお腹のところ。なんか、くすぐったくて。
触んないで、と自分の手で撫でてると。
「何で? 今更」
クスクス笑いながら、またオレの頬に触れてくる。
「もー。あちこち、触んなってば」
オレが、そう言ったら。四ノ宮は、ふ、と笑んで。
「やだよ? 触るし」
言って、ぷに、と頬をつまむ。
「――――……ッ……」
何でか、全然分かんないけど。
なんか。ちょっと恥ずかしいし。
なんで、こんな宇宙人に照れなきゃいけないんだと思いながら、ぷい、と顔を背けて、食事に集中。
オレを覗き込むようなことは無くて。
笑い交じりの吐息とともに。
なんか、頭を軽く撫でられる。
だから、触んなって、言ってるのに……。
でも顔は見せたくないから、スルーして食べ続けることにする。
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