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第246話「ふと気付くと」*奏斗

 とりあえず……コーヒー淹れよう。  四ノ宮が葛城さんとしばらく電話してるので、オレはなんとなく暇で、コーヒーを淹れることにした。  四ノ宮の家のキッチン。豆やカップやその他諸々、どこにあるかが分かる。  もう何回も、淹れてるから。  ……これも変だよな。 「奏斗」 「ん?」 「火曜、暇?」 「五限の後なら……」  ん、と頷いて、そのまま四ノ宮がまた電話の続き。  何だかなあ。  ……オレ、四ノ宮の家のパーティに、出るのか。  スーツまで、作りに行って。  わざわざ。  ……でもまあ。葛城さんには会えるか。     ――――……葛城さんて。  四ノ宮とオレのこと、どこまで知ってるんだろ。ある程度はきっと、知ってるんだよね。でもって……どう思ってるんだろう。  ……会ってお礼を言えるのはいいけど。うう。やっぱり、ちょっと嫌かなあ。  ……でももう、あれ、絶対、行くことになってるし。  四ノ宮の後ろ姿を見ながら、コーヒーにお湯を落としながら小さくため息。 「――――……」  その時。  なんだか、ふっと、突然、気づいた。  ――――……オレ、朝から、四ノ宮とのことばっか、考えてるなあって。  それに気づくと、あれ?と、更に不思議に思うのは。  ……昨日から、和希のことを、あんまり、考えていないということ。  オレ、昨日、ついに和希に会ってしまったのに。  ずっと、思い出さないようにして。その為に昔の友達まで避けて。  あんなところで、会ってしまうとか。  ――――……本当に。どうしようって、会った時は思ったのに。  ……四ノ宮が、和希のとこに、行ってくれて。  ――――……もう大丈夫って言って。側に居るからって言って。  ぽたぽた落ちていくコーヒーを見つめながら。  ――――……なんだか、うまく考えられない。  オレ、本当に和希には、もう会いたくないって思ってたんだ。  自分がどうか、なっちゃうかもって。  もしどこかで会って、平気で、久しぶりとか言われたら。   元気だったとか、聞かれたら。  恋人が、和希にできてるって、話を、されたりしたら。  ……色んな、再会時のやり取りを、勝手に想像して。  オレ、そん時、普通に対処できそうな気が、しなくて。  だから、絶対、会いたくなかった。  少し前に、真斗から、和希にオレの連絡先を聞かれたって聞いた時だって、手が震えて止まらなくて。泣いて、訳わかんなくなってたのに。 「――――……」  ……なんかオレ。  昨日は、思っていよりも。動揺してなかったかも。会った時は、どうしようかと思ったけど……。  ――――……四ノ宮が、大丈夫って、言い続けてくれてた、から……かな。  一人で考えてたら、耐えきれなくてクラブに行ってしまったけど、行った割には、全然その気にもなれなくて。触れられた手が気持ち悪くて。四ノ宮のことが気になって、とてもそんなことをできる気はしなかった。  クラブを出た時に、ホッとして。  ――――……迎えに来てくれた四ノ宮と帰ってきて。  一緒に、ご飯、食べて。  ――――……一晩中。あんなことになって。 「奏斗?」  不意に驚いたみたいな声で呼ばれて、え?と四ノ宮を見ると。四ノ宮はまだ電話中だったのに、びっくりした顔でオレの手元を指した。 「溢れるよ?」 「え。……あ」  マグカップに注いでたコーヒーが、もうあと僅かで零れる寸前。 「わ……なにこれ」  四ノ宮は苦笑いを浮かべながら、電話に戻っていった。  熱くて飲めない。これじゃ、ミルク入れられないし、四ノ宮に飲ませよ……。  なんて思いながら、苦笑い。 「――――……」  一晩というか、朝まで、あんな風に。  …………あのせいで、オレ。  ……和希のこと、ほとんど考えなくて。  ――――……今日が始まっても、ずっと、四ノ宮とのことだけって。  でもおかげで――――……泣きも、震えもしてないし。  ドツボみたいな感情にも、はまらないで、済んでる。……ような気が、してきた。

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