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第248話「楽しそう」*大翔

「次あれ乗りたいー」 「まだ乗るの?」 「乗ろうよ、ていうかまだ全然乗ってないじゃん」  この遊園地には初めて来たけど、どうやら家族連れが多い。身長制限のない穏やかな乗り物は混んでるが、大人やカップルが乗るような乗り物は空いてる。どれもこれも、十分程度並べば乗れる。 「来てからいくつ乗ったっけ」 「さあ? 早く行こ」  この人、絶叫系、好きだなあ……。意外……というのか、好きそう、というのか、どっちともとれるな。  オレが渋ってるからか、背中についた手に押される。 「早く早く」 「早く行かなくても乗れるって」  言いながらも、なんだかすごくはしゃいでる感が、すごく。  すごく。…………どう見ても、可愛い、ので。  まあいっか、と思う。 「これもすぐ乗れそうだね」 「絶叫系は人気ないのかも。親子連れの比率が半端ないですよね」 「だね。昔こんなだったかなあ……覚えてないや」  そう言いながら奏斗の視線の先は、ジェットコースター。逆さになって通り過ぎていくところを、うわー、と楽しそうに見てる。 「そんなにこういうの好き?」 「うん、すっごい好き。おしりの辺りが、ふわーって浮く奴、すごい好き。分かる?」 「ああ、分かる」 「四ノ宮も好き?」 「んーオレはバイキングとかが好きかな。船の形してて、風が気持ちいいやつ」 「じゃあこれ終わったら、バイキング行こう。どこにあるんだろ」  そう言って、さっきからずっと握り締めてるパンフレットをまた開いてる。  なんかその様子を見ていると、クスクス笑ってしまう。 「何?」 「いや。楽しそうだからさ」 「ん、楽しい……あ、ここだ。ジェットコースター終わったら向こうね?」 「はいはい」  頷きながら、少し下にある、奏斗の頭を見下ろす。 「バイキング乗ったら、何か食べよう?」 「うん。いいよ。……どこがいい?」  パンフレットを広げながらオレを振り返って見上げてくる。少しのぞき込んで「何があるの?」と聞くと。 「ファーストフードと、ピザと、ラーメンとかうどんとか……でっかいフードコートみたいなのもあるみたい」 「じゃあそこ行って決めよ」 「うん」  今日、出かけようと言った時、奏斗が着てきたのは、水色のTシャツに黒のデニム。シンプルだけど……何着てても可愛いからなぁ、この人。 「……? 何?」  じっと見つめてたら、バレた。 「別に?」 「……?」 「何食べようかなーって考えてただけ」 「ふうん?」  言いながら、奏斗はまた案内図を見てる。 「朝甘いの食べたからなあ……海鮮丼もあるってーオレそれがいいかなあ」 「あ、いいね。オレもそーしようかな」  そんな話をしながら誘導に従って進んでいたら、オレ達の目の前で、列が締め切られた。 「やったー、次一番前だね」  ジェットコースターの座る位置が一番前だからって、すごい嬉しそう。 「――――……」  ふ、と笑んでしまうと、奏斗が気づいて、なんだよ、とむくれる。 「別に……」 「……何で笑うんだよ?」  む、と見つめられて、んー、と考えてから。  さりげなくあたりを見回してから、奏斗に近づいて。 「なんかすごい、可愛いなと思って」 「な……」  なに言ってんのほんとに。恥ずかしいからやめろよ。  と、最後の方、小さくこそこそと言いながら、オレを睨む。 「だって、なんか子供みたいで」 「……む」  むむむ、と面白くなさそうな顔をしているけれど。 「どうぞー」  前の人達が出発して、待機の列に並ぶように係員に呼ばれると、すぐにパッと笑顔に戻った奏斗は、オレと目が合うと、む、と口を閉ざすけど……。 「もういいや。早くいこ」  と言って、またニコニコ。我慢できないらしい。  こんなに遊園地好きだとは思わなかったから、嬉しい誤算。  ここに来てからは、何に乗るかとか、次どっちに行くかとかしか考えていないみたいで、ほんと楽しそうで、良かった。  ジェットコースターの一番前の列の所に並んで、今走ってるのを目で追いながら。 「後でも一回乗ろ?」 「何回でもどーぞ」 「え、マジで?」  何だかものすごく嬉しそう。……何回乗る気なんだか。  ……おもしろ。  

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