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第249話「可愛いというか」*大翔

 ジェットコースターに乗って、その後バイキングに二回乗った。  どうして二回乗ったかと言うと、超空いてたせいで、降りると同時に、奏斗がまた乗り口に向かったから。係りの女の子に「いらっしゃいませ~」と、すごく笑われてるし……。 「すっごい、気持ちいいー」  一番高いところで、ふわ、と体が浮くと、ひゃー、と楽しそうな声。  乗ってる中で、誰よりも楽しんでるんじゃないだろうかと思った。  で、また隣の乗り物に乗ろうとしてる奏斗の腕を掴んで、「一旦休憩。ごはん行くよ、ごはん」と言うと、「あ、うん。なあ、あとでまた乗ろ?」と見上げてくる。  上目遣いの、でっかい瞳。楽しそうな笑顔。ただ、オレとの身長差によるもので、本人に、何の意図もないのだろうけど。  ……何これ。めちゃくちゃ、可愛いんだけど。   「だから……何回でも、いいよ」  脱力しながらそう言うと、奏斗は嬉しそうに笑う。  あれも楽しそう、とか、これも乗りたい、とか、あちこちの乗り物に吸い込まれていきそうな奏斗を押さえつつ、やっとたどり着いたフードコートは、結構混んでいた。やっぱり家族連れが多いんだな、と、ざっと見まわしただけでもそう思う。 「四ノ宮、あそこ空いた」 「あ、席取っといて。海鮮丼でいいんだよね?」 「うん」  どんぶりの店に並んで、しばし待ち時間。  奏斗を探すと、少し先の二人掛けの席に座って、まだパンフレットを眺めている。  もはやパンフなど見ず、園の端から乗って制覇してけばいいんじゃねーのと、思いながらも、なんだか、遠くから見ていても、ウキウキしてるのが分かる位、楽しそう。  なんか可愛すぎるよな。  ……毎週色んな遊園地連れてこうかな。……さすがに飽きるか?  いや、あの感じだと飽きない気がする。  ウキウキ楽しそうな奏斗を見てる視線の先で、奏斗の隣の席の女の子が奏斗に気づいた。一人がひそひそと何かを言うと、そのグループの残り三人が奏斗をこっそり見てる。まあたぶん、カッコいいか、可愛いか、何か言われてるんだろうなと容易に想像がつく。  ……あんなに顔、可愛くて、性格も元はきっと明るくてまっすぐで。  なのにたった一人に捨てられたからって、あんなにおかしくなってしまうのかと思うと何とも言えない。  ……でもって、自分のこと、汚いなんて。  ずっと、汚いなんて思いながら、そういうことしてた訳じゃないんだろうけど。  でもオレとしようってなってる時に、とっさにそんなのが出てくる程度には、心の中では良くないって、思ってたんだろうな……。  気持ちいいことで解消すればいいんだって自分をごまかして、本気の恋なんてする気もなくて、ずっとそれでいいと思ってきたんだろうに。昨日抱いてる間、可愛いとか綺麗とか、今まで誰にも言ったことのない言葉を浴びせ続けたけど。……ちゃんと届いてたかな。  ……あーでも。ちゃんと、聞こえてなかったかもしれない。  気持ちよさで朦朧としてる時に言ってもな……。  やっぱり、普段から言わないと駄目か。  正直今まで言った記憶がない。というか、そこまで思ってないから、言うわけがない。  遊び相手に選ぶのは綺麗な子が多かったけど、それを愛しいとかまでは思わなかったから、多分一度も言わずにきたと思う。  ……すげえ可愛いというよりは、愛しい……というのが正しいのかもしれない。  まあ、愛しいとか思うのが初めてすぎて、これがそうなのかも定かではないが。  でもきっと、そんな気持ちだと思う。  ただ可愛いとか顔のつくりじゃなくて、愛しいとかそっちの気持ちがあるから、言いたくなるのかも。  汚いなんて、絶対言わせないし、思わせもしないように、まず、言いまくろう。  自己肯定感が低すぎるから、めちゃくちゃ高めてやったら、多分、あの座り方もしなくなるはず。  ……まあ、もう、無理やり一緒に座るから、物理的にさせないけど。  ……つか、しよっちゅう遊園地 連れてきてれば、ずっと笑顔で居られるようになりそうな。  とか、考えると、なんだか可笑しい。

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