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第267話「変なの」*奏斗
最初、こいつと個人的に話し始めた時は、こんな感じじゃなかった。
……ような気がする。違ったっけ?
…………ホテルで男と居るとこ見られて話すようになって。……最初はしかめっ面おおかったし、ため息みたいなのばっかりで。そのくせ過保護に、へんに怒るし。
変な奴、て思ってたはず。あ、今も思ってるけど。
「今日ほんと、なんこ乗ったかな」
クスクス笑いながら、四ノ宮が窓から外を眺める。
「ていうか、ジェットコースターとバイキングだけで何回乗ったっけ?」
そう言いながら顔を見つめられて、ちょっと考えてみるけど……。
「……十回……?」
「……いや、もっとでしょ、だって、バイキングだけだって、一度は三回続けて乗ったじゃん。係りの女の子、笑ってたよね?」
「……だって、空いてたから」
「空いてたって、三回続けて乗るって……」
可笑しそうに笑う。
……そう。多分、ごく最近かもだけど……笑うようになったんだよな。……苦笑い、とかじゃなくて。ちょっと……なんか、楽しそうに。
「もっ回乗りたい。夜乗ると景色違うよね。キラキラしてて綺麗だしさ」
そう言うと、また四ノ宮は笑って頷きながら。
「もう好きにしてよ。あ、でも、ちょっとはオレにも付き合ってね」
「うん」
頷くと、「じゃあもう好きなだけどうぞ」と言って、笑ってる。
楽しかった乗り物の話とかをしている間に、食事が運ばれてきた。
「じゃあ奏斗」
ふ、と笑んで、グラスを持つので、オレもなんとなくグラスを持ったら。
「お化け屋敷出られた記念ね。乾杯」
「……うん」
かち、とグラスをそっと合わせて、一口。
「変なトラウマ、なくなった?」
「……うん。多分。歩いて出口に行けたし」
「ん」
「……ありがと、四ノ宮」
「――――……うん」
礼を言ったオレを少しの間、面白そうに眺めてから、四ノ宮はクスクス笑いながら頷いた。
変な、トラウマ、か。
……和希のことも……そう思ってんのかな。
まあその通り……だげど。
誰にも言うつもりなんかなかったのに、四ノ宮には全部バレちゃったし。
すごく面倒だろうと思うのに、なぜかずっと居るし。
……変なの。ほんと。
食事を終えると、四ノ宮に連れられて、しばらく園内を突っ切って歩いた。
「どこ行くんだ?」
「普段プールがやってるところ」
「ふうん……?」
何でだろと思いながら、一緒に歩いて辿り着いたところには、人が集まっていた。
今年のプール開きはまだだし、ここで何があるんだろうと思いながらも、四ノ宮が立ち止まったところに一緒に並んだ。
ちょうど、一番真ん中にある、流れるプールを見下ろせる、階段の端。
「四ノ宮ってプール行ったりする?」
「まあ。行ったことはあるよ」
「好き? プール」
「んー……まあ断れなかったら行ってた感じかな」
「……ふうん」
オレ大好きだったけど。
断れなかったら、ってことは、四ノ宮はほんとは断りたかったってことかな。
「奏斗は好きそうだね」
「うん。好き、だね」
「だろうね」
クスクス笑って、四ノ宮が斜めにオレを見下ろす。
「こんなに遊園地好きとは思わなかったけど」
可笑しそうに笑われて、少し考えながら。視線を合わせた。
「……楽しいとこ。大好きだった」
「……だった、じゃないでしょ。大好き、だよね?」
そう言われて、四ノ宮を見上げると、ふ、と微笑んでる。
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