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第268話「ずっと居る」*奏斗

「ん。……まあ。そう、だね」  大好きだったけど、思い出があるところは、避けてた気がする。  でも、確かに、今も大好き、だ。  そんなことを考えていたら。  四ノ宮の手が、頭に置かれて、見上げると、よしよしと撫でられる。  ……何考えてるかは、分かんないはず、なのに。なんで今、撫でてんのかな。ほんと、変な、奴……。  と、その時、付近を照らしていたライトが消えて、真っ暗になった。 「あ。始まるみたい」  四ノ宮の声がしてすぐ後、音楽が鳴り始めて、不意に目の前のプールから、水が立ち上った。噴水みたいに。  たくさんのライトに照らされて、水がキラキラ光る。  音楽に合わせて、次々と色んなところから、水が噴き出して、ライトに照らされる。 「うわ……すご」  水と光と、音楽のショーなんだ。  突然目の前で広がった光景に自然と笑顔になった。  次々繰り広げられる光景に見惚れたまま。どれくらい経ったんだろう。  最後、ますます盛り上がって、ふっとすべてが消えた。  見ていた人達から自然と拍手が起こって、「ありがとうございました、引き続き園内でお楽しみください」というアナウンスが流れると、皆、バラバラと散り始める。 「……すごかったね。初めて見た。こんなのやってたんだ」 「今年からだって書いてあったよ」 「そうなんだ。すごかった」 「プール開きの前で終わっちゃうらしいから、見れて良かったね」 「うん……」  頷いて、もう、さっきまでが嘘みたいに静かで暗い、プールの施設を見下ろす。 「こういうの、好きでしょ?」 「うん。好き……綺麗だった。もっ回見たい」 「どうだろね。プールが終わったらまたやるかな?」 「好評だったら来年もやるのかな」  時間にしたら二十分くらいだったのかな。何曲か聞いた気がするから。  ――――……なんかでも、あっという間だった。 「来年もやってたら、連れてきてあげるから」  四ノ宮がクスクス笑いながら、オレを見つめる。  ……来年も。連れてきてくれる。とか。 「四ノ宮って、軽く言うよな……」 「ん? 何が?」 「来年、とかさ。……分かんないじゃん。そんな先のこと。言わない方が、いいと思う」 「――――……」  もう静かで暗くなった、下方に視線を落として、そう言ってから。  ……あ、これも言わない方が、良かったか。  言わないで、社交辞令位で受け取って、そのまま流して。  ……その方が良かったな。何でこんなこと、わざわざ言っちゃったんだろ。 「あーと……ごめん、余計なこと言った。……そだね、来れたら、来……」  そう言いかけていたら、不意に、腕を掴まれて、ぐい、と引き寄せられて。  驚いてる間に、キスされた。 「――――……っ……っ」  引けないように押さえられてて、押し返せないように、うまく掴まれてて、短い時間で、深く、キスされて。辛うじて、顔をそむけたけれど、また追われて、塞がれる。 「……っン……ッ……」  息が出来なくて、声が漏れると。  四ノ宮は、ゆっくりと、オレの唇を、離した。 「…………ッ」  少し視界が開けて、周囲をぱっと見ると、四ノ宮は、べー、と舌を見せて、笑った。 「止まって話してる内に、さっきからもう誰も居なかったよ」  その言葉にホッとすると共に、なんだか無性に腹が立つ。 「何で、急にこんなキス、すんだよ」 「――――……なんかムカつくこと言うから。塞ごうと思って」 「…………何がだよ……っ」 「オレが言ってるのは、行く気もないのに適当に言ってる訳じゃないから」 「――――……」 「ずっと居るって、言ってるじゃん。なのに、軽く言うなとか言ったりさ、そのくせ、適当に、来れたらとか言いだすし」 「――――……」 「……来れたら、じゃねーの。 やってたら、来るからね」 「…………」  ほんと、奏斗は……はー、とか、ぶつぶつ言いながら、四ノ宮は、オレの手首を掴んだ。 「ほら、行くよ。閉園まで一時間ちょっとしかないんだからさ。まだたくさん乗るんでしょ?」  言いながら、歩き出す。 「……うん。乗る」 「早くいこ」 「……でも、手、離せよ」  軽く振りほどくと、ち、と四ノ宮が軽く舌打ちの真似。 「何から乗りたいの?」  クスクス笑いながら、背中に触れてくる。  なんだかな。ほんとに。  ……ずっと居るって。  ――――……まるで本気みたいに、聞こえてくる。   

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