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第278話「言葉の半分は」*奏斗
車で揺られてると、なんだか急に眠くなってくる。運転してもらって寝る訳にはいかないと、頑張ってるんだけど、堪え切れずに欠伸が漏れた。
「……疲れた?」
四ノ宮の声は優しくて、オレはちょっと苦笑い。
「ごめん……」
「別に謝んなくていいけど。……基本、人が運転してると眠れないタイプだよね。寝ても気にしないから寝ていいよ」
クスクス笑われながら、オレは手を上にあげて、体を伸ばした。
「はしゃぎすぎたかも……結構疲れた」
「……まあ、そうだね。オレも久々に疲れたかも」
四ノ宮はチラッとオレに視線を走らせると、可笑しそうに笑う。
「というか、オレは体よりも、平衡感覚かも。なんかまだ、浮いてるような気もする」
「浮いてる?」
「なんかバイキングとか、ジェットコースターとか、尻が椅子から浮くよね。あれが残ってるような……奏斗は、ないんだね」
「ん、ない」
そんな感覚残ってるんだ、と思いながら、オレは無いなーと思って頷くと、四ノ宮は苦笑いを浮かべた。
「まあ、奏斗が楽しかったなら、いーけど」
「うん……すごく楽しかったよ、遊園地。ありがと」
「良かった。……ていうか、あんなに楽しんでくれるとは思わなかった」
何を思い出されているのか分からないけど、なんだかすごく面白そうに、楽しそうに笑いながらオレを見て、また前を向く。
「奏斗が楽しそうだと、オレもすげー楽しい」
「……」
……何言ってんだろ、四ノ宮。
…………何か、すごい……恥ずかしいこと言ってない?
「……返事ないけど?」
めちゃくちゃ笑いを含んだ声で言ってるけど、そんなの、一体なんて返事すればいいんだか。
「それでも返事ないし。……まあいいけど」
クスクス笑いながら言う四ノ宮。そのまま流れてる音楽に合わせて小さく歌詞を口ずさみ、なんだかご機嫌。……ていうか、洋楽の歌詞、口ずさむとか、なんか嫌味だなとなぜだか少しむっとしてるオレ。
まあとにかくご機嫌な感じで、四ノ宮が答えを求めてる雰囲気はないので、オレは返事をしないまま窓の外の景色を見ていた。
マンションの駐車場につくと、おみやげをトランクから出して、また四ノ宮はでっかいのを抱えてる。
「……改めて、面白いね」
オレが笑いながらそう言うと、苦笑しながら車のロックをかけて、二人で歩き出す。
「ありがとね、運転。……ていうか、一日全部、ありがと」
「……ん」
お礼を言うと、ふ、と微笑まれて、何? と見上げると。
「ありがと、とか、ほんと普通によく言うなあと思って」
「……言うでしょ、普通」
「まあ言うかもだけど。……奏斗はいつもすごくちゃんと言う気がする。そういうの、良いなーと思ったら、なんとなく笑っちゃっただけ」
「…………」
もはや四ノ宮の言葉の半分は、返すのに困るような気が、してくる。
エレベーターを降りると、四ノ宮がオレを見つめた。
「お土産を部屋に置いたらさ、服持って、うち来て?」
「……」
「風呂、オレん家で入れば?」
「……家で入るよ」
そう答えてから。
……なんとなく。
「……家で入ってから、コーヒー淹れて、持ってく」
「あ、ほんと?」
四ノ宮は、なんだかすごく嬉しそうに笑う。
「ドライヤーしてあげるから、そのまま来て」
「…………」
「分かった?」
「…………」
ちょっとため息をつきつつ。
でも、なんか、もう慣れてきてるオレは、反論せずに頷いてしまった。
「……分かった。鍵貸して、開けるから」
「あ、ごめん。鞄の内ポケットに入ってる」
「ん」
両手が塞がってる四ノ宮の鞄を開けて鍵を出し、四ノ宮の部屋の鍵を開けてドアを開いた。デカい袋を玄関に置いてから、四ノ宮がいったん出てくる。
「それもありがと」
四ノ宮の代わりに持ってた紙袋を、四ノ宮に返して、オレは頷いた。
「じゃね」
「オレがシャワー浴び終えたら、連絡しとくから。いつでも来て」
「……ん」
四ノ宮はオレが自分の部屋の鍵を開けて中に入るまで待っていて、オレは最後まで四ノ宮の顔を見ながら、部屋に入った。
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