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第281話「胸が痛い」*奏斗

「……っ……」  頬から首筋を通って、後頭部に回った手に、より四ノ宮に近づけさせられる。深く唇が重なってきて、遠慮なく絡んでくる舌に、ぎゅ、と目を閉じた。 「……奏斗」  唇を少し離して、オレの名を呼んで、それから、また、口づけてくる。 「……ん、ン……っ」  舌が上顎をなぞると、びく、と震える。咄嗟に引こうとしても、むしろ、より押さえられて上向かされる。 「苦、し……」  少し離れようとするのだけれど、でも結局、抵抗しきれない。 「……っは…………ん」  思うまま、キス、されて、頭の中が、真っ白になる。息が、熱くなって、心臓がどきどき、する。  何にも考えられなくなって、涙で滲む視界で四ノ宮を見上げると、ふと、気付いた四ノ宮が、ゆっくりキスを解いた。 「……オレとキスするの、嫌じゃないでしょ?」  頬に触れられてそんな風に聞かれる。 「キスが嫌なんて思う奴に、もう絶対抱かれちゃだめだからね?」 「…………」  すり、と頬を撫でられて、まっすぐな瞳に、至近距離から見つめられる。 「余計なこと考えないでいいから。オレと奏斗のことに、普通なんて、あてはめなくていいよ。最初っから色々普通じゃないし。オレ、普通なんか求めてないし」 「――――……」 「オレは、あんたと居るのが楽しいから居る。やってあげたいことをしてるだけだし、あんただって、オレとのことが嫌じゃないから、居てくれてるんだろ?」 「…………」 「それとも、嫌々居るの?」 「…………」  じっと見つめられて、言葉に詰まる。  嫌、ではない。ただ、首を振ると、四ノ宮は、ふ、と瞳を細めた。 「じゃあそれでいいじゃん。……オレは、それがずっと続けばいいと思ってる。奏斗もそう思えばいいって、思うよ」 「――――……」 「なんにも、気にしなくていいよ。普通がとか、変だとか、考えなくていいから」  ぎゅ、と抱き寄せられて。  瞳にたまってた涙が、俯いた拍子に、零れた。  ……泣いてる訳じゃない。  ……キスで。涙、出ちゃったのが、下を向いたら、零れただけ。  何故か、心の中で、言い訳をしながら。  オレの背中を、ポンポン叩いてる四ノ宮の肩に、額をぶつけた。 「……オレ」 「うん?」 「…………なんかもう……ずっと、色々考えるくせ、ついてる」  そう言うと、四ノ宮は、んー、と言いながら、オレをさらに抱き寄せて、後頭部に触れて、撫でた。 「……奏斗は、余計なことまで、ずっと考えてきたんだからさぁ。……もう、考えなくていいよ」  なんだかすごくゆっくりな、気合の入ってない声で、のんびり話す四ノ宮。  なんだか、胸が、ぎゅー、て、痛い。 「一緒に、楽しいことしようよ。美味しいもの食べさせるし。それで良くない?」 「――――……」  何だかよく、分からないけど。  ……気を抜いたら、また、新しい涙が、出そうで。  すっぽり抱き締められたまま返事もしないし、動きもしないオレを、四ノ宮はなんだかクスクス笑いながら、しばらくそのまま、撫でてくれていた。  

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