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第282話「なごむ」*奏斗

 しばらく抱き締められて、そのまま、ぽんぽん、と背中をたたかれて、離された。 「コーヒー飲んで、寝る準備しよ。疲れたでしょ今日」 「……」 「奏斗、帰んなくていいからね。一緒に寝るから」  当然のように寝ようって言われてる気がして、何か言おうかと迷っていたら、即、そう言われた。  なんだかすごく甘えすぎてる気がするんだけど、四ノ宮はそれでいいって言うし。考えなくていいって、言うし……。本気でそれでいいとは思わないんだけど、でも、その言葉で少し、力が抜けたのは、確かだった。  オレは、コーヒーを飲み終えて、ふー、と息をついた。 「洗っちゃうから、歯磨きとか、先にすませといていいよ」 「いいの?」 「うん。少しだし」 「ありがと……」  言って、もう寝る時間かと時計を見た。 「あ、ニュース見ていい? 天気予報」 「どうぞ」  マグカップを流しに運ぶ四ノ宮を見てから、リモコンでテレビをつけて、ソファに腰かけた。後ろで、洗ってくれてる音がする。  ちょうど、天気予報が始まったところ。  ふ、と息をつきながら、画面を見ていた。少しして、四ノ宮が、部屋を出て行った。なんとなく、一人で、ぼー、と週間天気予報を眺める。  今週は……月曜は晴れ、火曜は晴れのち雨だって。スーツの寸法行く時は、雨かなぁ……あ、ゼミ合宿は……なんて思っていたら。目の前に何かが影を作った。 「また丸くなってるし。膝抱えないって言ってるよね?」 「――――……?」  むりむり膝に乗っかってきたその物体は。 「……袋開けたの? これ」 「? どういう意味?」  四ノ宮はオレの膝の上に、遊園地で買ったでっかいぬいぐるみを乗せて、オレを見下ろしてくる。 「誰かへのおみやげじゃないの?」 「奏斗にだよ。うちに置いとくから。一人で座る時、抱えなよ」 「……は?」 「好きでしょ、これ。手触りとか、顔とか」 「――――……好き……だけど……」  触れてる感触は、やわらかいおもちみたいで、しっとりしてて。  顔は、あのばってんみたいに笑ってる、さっきオレが 選んだ顔、だし。 「……なに、お前んちに、これ、置くの?」 「そのつもりだったけど? 奏斗んちに置くなら聞いてから買うし。持っていきたいなら良いけど……でもまあ、オレん家で抱っこしてなよ」 「……」  じっと、その、のどかな笑顔を見てたら、ふっと笑いがこみあげてきた。 「お前んちに、似合わないって……」 「いいじゃん。なんか愛嬌あって、可愛いし。和むでしょ、これ」 「……うん。……すごい、好き。可愛い。気持ちいいし」  ほっぺをぷにぷにつぶしながら、そう言っていた。  ぎゅ、と抱き締めると、ふふっと笑ってしまう。 「でも、四ノ宮んちには、似合わないけど」 「いいよ。一人で座ってる時、よかったら抱いてて」 「……うん」 「あー、でも……」 「……?」 「一人で座ってる時だけね。オレが居る時は、避けといて」 「……なんだよ、それ」  クスクス笑ってると、天気予報が終わってしまったのに気づいた。 「あ。見逃した。ゼミ合宿、どうなるか見ようと思ったのに」 「ネットで見なよ」  クスクス笑う四ノ宮の手が、ぬいぐるみの頭をぶにぶにとつぶした。 「これ、手触り、すごいよね」 「うん」  ぎゅー、とぬいぐるみを抱き締めると、しっとりとした感触に体や手が埋まる。 「……すっごい気持ちいい」 「良かった。……奏斗、歯磨いて寝る準備しよ」 「あ、うん」  言われて、ちょっと名残惜しく思いながら離して、ソファの端っこに座らせた。  ……可愛い。  抱えてた四ノ宮を思い出すと、これ、オレの為に買って抱えてたのかと思って……なんか、余計に、その姿に和む。   

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