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第291話「買って良かったかも」*大翔

 午前の授業を終えて、食堂に来た。  今日はもう学校では奏斗には会わないかな……。  昼食を終えても、見かけないので、そんな風に思う。  少し前まではそこまで気にもしていなかったから、会っていたのかどうかも怪しいけど。……苦手だったから、たまたま見つけても話しかけるとか考えることもなく、スルーだったしな。  ……もう今日学校で会わないで、夜はお互い別で食べるとなると、奏斗は完全に自分の家に帰るだろうな。今朝、鍵は無理無理持たせたけど、絶対使わないだろうし。  早く帰って、どこかまで迎えに行くか? ……って過保護な母親かって絶対言われる。  宇宙人とか、母親かとか、……あと何言われたっけ??   「――――……」  周りであれこれ話しかけてくる周囲に適当に返しながら、オレはスマホを手に取った。  でもそこで、何ていう言葉を入れるか考えて、手が止まる。 『先帰ったらオレんちに入ってていいよ』  ……これは、違うか。……これ入れても、絶対オレん家には、入らないよな。すぐ、何でだよって返ってきそう。  何てメッセージを入れればいいか。うまくオレん家まで、誘導できたらいいんだけど。 『寝る準備して、待ってて』  これは? ……絶対見た瞬間、嫌な顔しそう。  返事も、来ないかもな。 「ね、大翔、何、険しい顔してるの?」  隣に座ってた女子に、クスクス笑われながら、見つめられる。 「……険しい顔してた?」 「うん。ちょっとね」  そう言われて、オレは自分の顎に触れて、ちょっと息をつく。  そんな顔に出てたかな? と自分に呆れながら、スマホを見つめる。  あ。  ……かなり不本意だったけれど、これなら来るかなというのを思いついた。 『また夜、ぬいぐるみ、抱きにおいでね?』  とりあえず、これが一番マシな気がして、送ってみた。  実際送ると、やっぱり想像以上にものすごく不本意だった気がして、取り消しをしようかと思った瞬間、既読のマークがついてしまった。  少しの間、返信が来ない。  ……あー、何考えてんだろ、今頃。  呆れてんのかな。やっぱ今の入れなきゃ良かった。  すると、手の中で、ぶ、と震えたスマホの画面を見ると。 『分かった』  という言葉と、犬の絵文字が奏斗から送られてきた。  ――――……。  知らずに、ふ、と微笑んでしまう。  顔が綻んだことに気づいて、ふーと息をつく振りをして、顔を引き締めた。  ……あの犬もどきの、変な顔して笑ってる、ちょっと間抜けな、ぬいぐるみ。  買って良かったかも。……なんて、思う自分に、ちょっと呆れた。  

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