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第293話「ため息」*大翔

「なんかさ、最近、二人仲良いよね」  多分何の意図もなく、相川先輩が軽く言った言葉に、奏斗は、は? と、眉を顰めた。 「仲良くないし」 「えーそうー??」  一秒で否定した奏斗に、オレは内心ちょっとムッとしながら。 「仲いいですよ?」  そう言うと、相川先輩は、だよなあ?とか笑ってて。  奏斗は、むむむ、とオレを睨んでくる。  ……仲良いっていう位、別に普通のことなのに。  そんな過剰に、仲良くないとか、言わなくて良くない? と思ってしまう。 「四ノ宮は何人で来てんの?」  相川先輩に聞かれる。 「八人です」 「こっちは五人。ユキが店検索してたら、ここ見つけてさ。焼肉行きたいーって。オレらはも少し経って、空いてから行こうって言ったんだけど」  ははっと相川先輩は笑うと。 「いいじゃん、入れたんだし」 「一時間以上並んだけどなー?」  相川先輩の苦笑に、奏斗もクスクス笑う。 「まあユキ、焼肉とかバーベキューとか、好きだもんなー」  相川先輩がそう言って笑いながら、四ノ宮じゃあな、とオレに言って、立ち去って行った。 「大翔、戻ってるよ」 「ん」  オレが友達に返事をしてるその隙に、奏斗はドリンクコーナーに行って、コップをセットしてボタンを押した。 「あのさ、一緒に帰れる?」  奏斗に寄って行って聞くと、ちら、と見上げられて、無理、と言われる。 「時間合わないし。八人で来てんだろ? こっち五人だし。多分先帰る」  ち。と思ってると、またじー、と見つめられる。 「……何、昼の」 「え?」 「ぬいぐるみ抱きに来てってやつ」  ぷ、と笑われる。 「なんかもう……来いよって言うなら断ったのに。あれ入れられたら、分かったって言っちゃったじゃん。ずるくない、お前」  苦笑いでそんなことを言ってる奏斗。    あの言葉の裏にある、来いよ、も分かったうえで、ちゃんと返事くれたんだなと分かって、なんか、すごく嬉しいとか。 「アレ買って良かったかなあ」  そう呟いたら、奏斗はまたオレにまっすぐ視線を向けて、ちょっと複雑そうな顔をしていたけど。 「……まあ。あれは、かなり、好きだけど……」  と、ふ、と笑った。  …………やっぱり買わなきゃよかったか。  と思ったけど、オレが意味の分からないそれを伝える前に。 「大翔くん」  香織がグラスを持って、やってきた。 「もう飲み物取った?」 「ああ、まだ」 「氷、入れよっか?」 「いいよ、自分でやるから……」  なんだかんだと、話しかけられて答えてる間に、奏斗は、じゃな、と軽く手を振って、離れて行った。 「――――……」  つーか。  別に何の狙いもなく、来たらたまたま居た女子だし。  今も……もしかしたらオレが戻らないから来たのかもしれないけど、オレが呼んだわけじゃねーし。  ていうか、そそもそも、奏斗は、全然平気な顔して、じゃな、とか言ってたから言い訳も必要なさそうだし。  こんなの、気にすることも無いのかもしれないけど。 「……」  あれこれ色々話しかけられて、内心、ため息の嵐だった。

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