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第302話◇「嘘」*奏斗
その後、デパートから外に出て、駅を抜けようと歩いていた時だった。
「あれ? ユキ?」
呼ばれて振り返ると、さっき別れたばかりの小太郎たちが後ろに居た。
「あ」
なんとなく咄嗟に、やば、と思って、何も言えなかったオレに、小太郎は普通に「買い物終わった?」と聞いてきた。
「あ、うん。買ってきた。……抜けてごめんね」
「いいよ。買えて良かったね」
「うん」
「四ノ宮と一緒だったの?」
小太郎がオレにそう言ったのと同じタイミングで、翠も四ノ宮を見て「何でユキと一緒?」と聞いた。
……やっぱり変だよね、抜け出して、四ノ宮と居るって。
なんて言おうか。そう思った時。オレを一瞬見た四ノ宮が「たまたま一緒になって」と言った。
「オレもデパートに用があったんで、一緒に帰ってきたとこです」
さらっと出てきたその言葉に、オレが四ノ宮の顔を見上げると、四ノ宮はオレに「ね? 先輩」と笑顔を見せる。辛うじて頷くと、特に突っ込まれることもなくて、そっか、と小太郎たちは頷いた。
すぐに、また明日ねー、と別れて、二人で歩き始める。
「――――……」
なんだかな……。
オレがすぐ答えられなかったせいで、四ノ宮に嘘、つかせたんだよな。
あんまり仲良しだと思われたくないとか、四ノ宮に言ってるから。
なんか。……何だかなあ……。
自分でもよく分からない気持ちになって、少し黙ったまま考えていたら、ふと、顔を覗き込まれた。
「……なんか怒ってる?」
不意に聞かれて、え?と見上げる。
「怒ってなんかないよ?」
そう言いながら、なんとなく視線を前に戻すと。
「……奏斗」
四ノ宮が、オレの腕を引いて、自分の方に向けさせた。顔を至近距離で見上げる羽目になる。
「ほんとに?」
「うん、全然。怒ってなんかない」
笑顔で言ったオレに、四ノ宮は少しだけ黙ってから頷いて、ゆっくり、オレの腕を離した。
「奏斗?」
「ん?」
「オレと一緒に行ったんだって、言っても良かった?」
「ううん」
「言っていいなら、今度からそう言うけど」
なんだか困った顔をして続ける四ノ宮に、オレは顔を横に振って、笑って見せた。
「言わなくていい。ていうか、さっきありがと、四ノ宮」
そう言うと、四ノ宮はなんだか黙ってしまった。
全然怒ってなんかないのに、何かをすごく気にしてる四ノ宮に、オレの方もちょっと困って。
なんとなく気まずい感じのまま歩いて、マンションに辿りついた。エレベーターを降りると、数歩先に進んで、四ノ宮が自分の部屋の鍵を開ける。オレも、四ノ宮の部屋を通り越して、自分の部屋に向かおうとしたところ、不意に腕を掴まれた。
「ちょっと来て」
「え、でも」
「いいから、今来て」
ぐい、と引かれて、そのまま部屋に連れ込まれた。
玄関のドアに背を押し付けられて、否応なしで、見上げてしまう。
「……何?」
「あのさぁ……」
四ノ宮は、ふー、と息をつきながら前髪を掻き上げて。
ちょっと眉を顰めて、オレを見下ろす。
さっきまでオレに、怒ってる?とか聞いてたけど。
……今はむしろ、四ノ宮の方がなんか機嫌悪い気がする。
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