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第303話「自分のこと」*奏斗

「なんか、嫌だったなら言いなよ」 「嫌じゃないってば……」 「じゃあ何でそんな顔してンの。さっきまでと違うし」 「――――……」  ……ああ、なんかもう。ほんとオレって、馬鹿。  四ノ宮が他の奴より敏すぎるからなんだけど。それも知ってるんだから、もっとちゃんと隠さないとなのに。……つか、こいつに何か、まともに隠せたこと、あったっけ……。 「だから……四ノ宮がどうとかじゃなくて」 「……オレのことじゃないの? じゃあ何? 今更、隠すなよ」  腕に触れられて、まっすぐ見つめられる。  ……なんかもう言うまで離してくれない気がするし、嘘もつけない気がしてきて、仕方なく思ったことを話し始める。 「だから……なんか、そもそも迷惑かけたの、オレだし。葛城さんにもそうで。……そのお礼を買うの、付き合ってくれたのに」 「うん……?」 「……バレたくないし、変に思われたくない、とか言って……お前に、嘘、つかせて……」 「――――……」 「なんかオレ、やだなと思ってただけで……別に、四ノ宮に怒ってた訳じゃないから」  ぼんやり嫌だったことが、口にしてくとはっきり、それが嫌だったんだなと分かる。なんとか言い終えると、「……何なのそれ」と呟いた四ノ宮に、不意に引き寄せられた。すぽ、と腕の中に抱き締められて、固まってると。 「……あのさぁ……奏斗が、色々あって、バレたくないって思ってるの、オレ知ってるよね?」 「……うん」 「知ってるから、納得もしてるし、さっきも一瞬困った顔したから、ああ言ったけど……何でそんなので、そんな自己嫌悪しちまうの」 「……だから……なんか迷惑ばっかりかけてる気が、して」  そう言うと、四ノ宮はおおげさに、息をついた。 「あのさぁ……言っとくけどオレ、軽い嘘なんかつくの、いつも通り過ぎて、何とも思わねーけど」  は? と、上向いて、まじまじと見つめてしまう。 「それはそれでどうかと思うんだけど……」  思わず言うと、苦笑いを浮かべた四ノ宮は、オレを見つめ返した。 「だから……めんどくせーから適当にうまいこと言って生きてきたって知ってるでしょ? オレが全部本音言ってるの、奏斗だけだかんね。まあ葛城も、オレがそうしてんのは知ってるけど」 「――――……」 「……はー。もー……」  ぎゅ、と抱き締められてしまう。 「……確かに奏斗と居ると、色々あるけど……オレが自分の意志で一緒に居るんだから、迷惑だろうが世話だろうが、なんでもかけてくれていいんだけど」 「――――……」 「……つか、それ、他の奴に任せる気ないし。オレが居るから、オレにかけていいよ。あれくらいのこと回避すんの、オレ何ともないんだから、そんなことで落ち込まないでくんない? ……ていうか、さっきから変になったの、オレがさらっと嘘ついたから怒ってんのかと思ったじゃん」 「……その嘘、オレのせいなのに怒る訳ないし……」 「せいって言う考え方も、無しにして?」  ……なんかそう言われると、ほんと。  …………オレの考え方って、めんどくさいな。 「奏斗」 「……?」 「オレ、あんたと居たいから居るし。あんたには嘘はつかない」 「――――……」 「奏斗が大事だって言ったよね? ……つか、多分和希とかも……すげえムカつくけど、あんたのこと、大事に思ってたと思う。先輩や先生とか真斗とかも、皆、奏斗のこと、大事だって思ってるから」 「――――……」 「奏斗も、自分のこと、大事だって、思えよ」  まっすぐに見つめられて、そんな風に言われると。  何だか、ぽかん、として、ただ四ノ宮を見つめてしまう。  自分のことを、大事?  ……なんかあんま、考えたこと無かったかも。 「何それ。初めて考えたみたいな、顔して」  ……やっぱり、エスパーなのかな??  頷くのも何だかなと思って、眉を顰めていると、四ノ宮が苦笑いを浮かべた。先に靴を脱いで玄関に上がりながら、オレを振り返る。 「靴脱いで、あがって」 「え? あ、ちょ……」  腕を引かれて、靴のままあがってしまいそうで、慌てて靴を脱いだ。

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