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第306話◇「変」*奏斗

「……」  はー。  ……何でこんなことになってんだろ。  今オレは、四ノ宮ん家のバスルームのバスタブで、四ノ宮と向かい合って、座ってる。  体を洗い終えて先にお湯につかってると、四ノ宮がオレの後ろに入ろうとするから、それを拒否した結果、向い側に四ノ宮が座った。    男二人でバスタブで向かい合ってるってやっぱ、変……。  と、いっても……。抱かれちゃってる、訳だし……キスとかも普通にされて、抗えず応えちゃってるし。お風呂くらい今更って気がするオレも居るんだけど。  でもやっぱり、おかしいよな、と思うオレも居る。こうやって向かい合ってるって、絶対絶対、変だし。  お湯はとっても気持ちいいんだけど、膝を抱えてるオレに対して、四ノ宮はなんか腕を広げてくつろいでて、背中をつけて寄りかかってる。足をこっちに伸ばしてくるので、なんとなく、右側に寄って離れると、四ノ宮は苦笑い。 「触れたくないみたいなのやめてくれる?」 「……邪魔かなと思っただけだし」  ぼそ、とつぶやいて答えると、四ノ宮はクスクス笑ってる。 「……オレ、風呂に他人と入るの初めてなんですよね」 「……嘘ばっか……」 「シャワーとかじゃないよ? こんな感じで二人で向かい合って入るのはほんとに初めて」 「…………」  ……オレはあるけど。和希と。  和希んち、親が共働きで、夜まで帰ってこないこと多かったから……。  …………あ、余計なこと考えてるな、オレ。 「……奏斗は初めてじゃない?」 「……」  何だかちょっと気まずくて、四ノ宮を見てると。  ぴん、と指でお湯を弾いてきた。 「ぶ」  続けてびちゃびちゃお湯をかけられて、「もー……小学生かよ」と文句を言うと。四ノ宮はまたクスクス笑いながら、濡れたオレの前髪を掻き上げた。 「奏斗、濡れてると、可愛いよね」 「……濡れてなくても可愛いですー」  べー、と舌を出して、四ノ宮の手を避けて、めちゃくちゃ眉を寄せて睨むと、ものすごく面白そうに笑われる。 「可愛いって認めた?」 「……だって可愛いって言われつづけて生きてきたし」 「まあ。そうだろうね……」  もう半ばやけくそで言ったセリフに、四ノ宮は本当に楽しそうに笑いながら、オレの顎に手をかけて、くい、と持ち上げると、真正面から見つめてくる。 「誰が見ても、可愛いんだろうけどね」  なんか、意味ありげに言って、ニヤッと笑うので、ちょっと黙って続きそうな言葉を待っていると。 「……でもオレ、最近、ちょっと乱れた顔の方が好きかも」 「何、乱れたって」  離して、と手を外させながら聞くと。 「可愛くニコニコしてる時より、オレに向かって、なんか文句言ってる顔とか、抱かれて辛そうな時とか、気持ちよくて死にそうになってる時とか、すっげー好きだな」 「……辛そうなのが好きとか。……知ってたけど、Sっ気あるよな……」  むむむー、と眉を顰めながらそう言うと、四ノ宮は、ふ、と笑う。 「奏斗、Мっ気あるよね。良かったね、相性良くて」 「は? 無いし」 「あると思うけど?」 「……無いし。も、へんなことばっか言うならしゃべんない」  ぶくぶくぶくぶく。  口をお湯につけて、沈んでると。  腕を引かれて、抱き寄せられてしまった。 「……じゃあ、しゃべんないから、こっち来て?」 「やだって……」 「ここでも膝抱えてるしさぁ?」 「……しょうがないじゃん、狭いからだし」 「癖だからでしょ?」 「……狭いし見えないようにだし」 「ていうか、今さらじゃない? 見えないようにって……いつも全部見てるけど」  言いながらあれよあれよと、体勢を入れ替えられて、四ノ宮によっかかる感じで後ろから抱き締められる。 「何もしないから。このまま温まったら、出て、お茶しよ」 「――――……」  なんかもう、見られるよりいいか、と思って、そのまま固まる。

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