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第307話「落ち着いて考えよ」*奏斗

 後ろに座ってる四ノ宮がクスッと笑うので、何? と聞くと。 「奏斗、肩のライン可愛いよね」  とか、答えに困ることをしみじみ言う。 「……そんなの可愛いって言われたことない」  意味わかんないと思いながら言うと。 「首も綺麗だよね」  と、言いながら、手の平で触れてくる。 「……っしゃべんないし何もしないって言ったじゃん」 「あ、そっか」  クッと笑いながらそう言って、でも、四ノ宮の手がオレの肩に触れる。 「奏斗、凝ってる?」  軽く揉まれて、「凝ってない」と首を振る。 「何もしないって……」 「だから変なことはしないって。マッサージしてあげるだけ」 「凝ってないってば」 「ふうん……」  そう返しながらも、そのまま肩をもんでる四ノ宮に、へんなことされるよりはマシかと黙ってると。 「気持ちいい?」 「……凝ってないから分かんない」  優しく、触れながら、腕の方まで揉んでくる。  なんかちょっと、気持ちイイかもしれないけど。それは言わないでいると。 「明日の朝、何食べたい? 和食とかでもいーよ?」 「……なんでもいい」 「なんでもが一番困るって、世のお母さんが言ってるの聞いたこと無い?」 「あるけど……だって、なんでも美味しいし」 「――――……」  急に訪れた沈黙に、振り返ると。ふーん、と嬉しそうな四ノ宮は。 「……それはかなり嬉しいかも」  なんだかご機嫌な顔を見てなんとも言えない気分になって、オレはまた前を向いた。  美味しいって、オレいつも言ってるじゃん……。  ……何で今更またそんな嬉しそうな顔するのか、全然分かんないし。 「んー……何にしよっかな」  楽しそうに明日のごはんについて色々話しながら、オレの肩をマッサージしつづけてる四ノ宮。  ……しかも、お風呂で。なんかくっついたまま。  絶対おかしいと思う。  思うことは色々あるのに、結局何も断れず拒否できず、四ノ宮の側にいる自分と。……ずっと居るって言い続けてる四ノ宮。  今の自分たちって。ほんと何してんだろ、と。  ……冷静なオレは思うけど。  本当によく、分かんないけど……。 「和食だったら何が好き?」 「和食……味噌汁と納豆かなあ」 「納豆買ってないや。じゃあ、明後日和食にしよっかな。ごはんと味噌汁と納豆と……卵焼きとか?」 「うん」 「じゃあ明後日は和食にする」  ……明後日も、当たり前みたいに、一緒に食べることになってるし……。  と、ぼんやりと、思いながら。 「……ん」  なんとなく、否定する言葉が出て来なくて、頷いた。 「ん、マッサージ終わり」 「ありが――――……」  振り返って、言いかけたオレは、言葉の途中でキスされて。  すぐ離されたけど、ムッとしてると、「これ、お礼ね」とか言って、クスクス笑いながら立ち上がった。  そのまま湯舟から出てシャワーを浴びると。 「先出て、服持ってくるからゆっくり出てきて? バスタオルは先においとくから」  バスルームの扉を閉めながら、そう言って、出て行った。  一人になったバスルームで、なんだか疲れた気分で、バスタブに寄りかかった。  なんかもう。……超不本意だけど……実際そんなんじゃ、ないのだけど。  ……カップル、みたいなこと、してる気がして。  なんかもう、オレは、どうしたらいいのか、良く分からない。  ほんとなら、こんなの嫌だって言って全部振り切るのが、四ノ宮のためにも、良いんだろうけど。  でも、そうしようと思うと、少し躊躇いみたいな気持ちを感じるのは、何でだろう。  ……落ち着いて考えよ。……ほんとに。  そのまましばらくつかってて、しばらく後に「奏斗、のぼせてふやけるよ?」と言われて、仕方なくお風呂から出ることにした。

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