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第310話「ちゃんとしないと」*奏斗
「ごちそうさま」
翌日の大学。お昼ご飯を食べ終わったオレ。
今日は授業が終わったら裏の駐車場で待ち合わせて、スーツの採寸。
オーダースーツ……。着る機会、無いんだけどいいのかな。
と思っていると。
「ユキ、これ何?」
鞄の隣に倒して置いてある、葛城さんへのプレゼントに気づいた友達が不思議そうに聞いてきた。
「お世話になった人にあげるの。日本酒」
「へえ。日本酒かー。オレらも早く酒飲みたいな?」
「うん、そうだね、飲みたい! 皆が成人したら、お祝い会しよ~」
いいね、と皆が笑ってくれて、楽しみだねーなんて話していたら、「日本酒あげるとか、相手、おじさんとか?」と聞かれた。んん?と少し考える。
「おじさん……ていうには、なんか、ちょっと申し訳ないような……」
「何それ」
笑われて、うーん、と考える。
「年は良く分かんないけど、イケメンっていうか……何ていうか、うーん……おじさんって言葉はなんかあわないなぁ」
「何それ。どんな知り合いなの?」
皆、オレがはっきりしないので、不思議がって次々聞いてくる。
「んー、知り合いの知り合いで……ちょっとお世話になった人なんだけど」
「そうなんだ」
「ユキ、偉いねー、そういうのちゃんとして」
なんて褒められてしまったけれど、でもオレかなりご迷惑を……と思って、素直には受け取れない。
しかも、その、すごくご迷惑をかけた葛城さんが、きっととっても大事にしてる四ノ宮と、オレは、今、あんまりよくない関係を築いてしまっているし。……もうなんかお詫びの気持ちも入ってきてるし。
……別にオレが望んでそうしてるわけじゃないけど。
きっと、オレがこんなんだから、四ノ宮は、あんな感じになっちゃってるんだ。オレが一人でもちゃんと大丈夫、て、安心できないから。
なんか四ノ宮って、世話焼きタイプなんだろうな……。ほっとけないんだろうな……。はー。ほんと。オレってば。
思えば四ノ宮には、変なとこ、いっぱい見せちゃったもんな……。
はー。もう。オレ先輩なのに。
……四ノ宮がちょっと歪んでる感じのとこ、話聞くからな、みたいなこと言ってたくせに、オレってば、面倒見てもらってばっかりのような気がする。
ダメだな、こんなんじゃ。
「……ユキ、顔が険しすぎるんだけど」
「え? そう?」
「おでこ」
隣に居た友達が、手を伸ばしてきて、オレの額をすりすり撫でて伸ばしてる。それがなんか面白くて、くすぐったいし、と笑って少し引いてると。
「だ」
ぽこ、と一瞬、頭に手が乗った。え?と思って頭を押さえながら振り返ると。
「……しの、みや……」
なんで、お前は、最近よくオレの前に現れるんだろう。
学食なんていくつもあるし、今までそんなに会ってなかった。……見てなかったのかもしれないけど。とにかく絡んでなかったのに。
「何で頭……」
頭とか触んな。バカ。と思いながら、最後まで言わずに、思わず眉を寄せると。
「先輩、あとでね」
それだけ言って、すぐ離れていった。
四ノ宮の横には、四ノ宮の友達が何人か居るし、多分偶然通りかかっただけなんだろうけど……。
なんとなく。
……おでことか触られて、笑ってるところだったのが、なんか。タイミング悪い、と思ってしまう、この感覚は何なんだろう。
別に、見られたって関係ないし。やましいこともないし。いや、そもそも、四ノ宮に関係ないし。
「なんか、あの王子と仲良し?」
「……別に。仲良しじゃないし」
むむむむ。友達に笑われたじゃんか。
……オレが険しい顔してるからかもしれないけど。
……四ノ宮のバカ。
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