307 / 542
第311話「何なの」*奏斗
昼に四ノ宮に会って、なんだかちょっと納得いかない気分のまま、授業が終わって、裏の駐車場に向かった。
「奏斗」
駐車場に着く手前で、後ろから四ノ宮の声がして振り返ると、駆け寄ってきた。ちょっとムッとして見上げると、四ノ宮も、オレを見つめる。
「何でムッとしてんの?」
「……なんで昼さ、頭触るんだよ?」
そう言うと、四ノ宮は、「あれは奏斗が悪いでしょ」とか言ってくる。
何でオレが悪いの、と言い返したところで、少し先に停まっていた車から、葛城さんが出てきた。
「こんにちは」
その車に近づいて、挨拶をする。
「雪谷さん、こんにちは。大翔さんも、元気にしてますか」
「元気」
四ノ宮と葛城さんが話すのを聞きながら。
おお。今日もばっちり、カッコいいスーツ姿だ。やっぱりこの人をおじさん、とか表現するのは、かなり抵抗を感じる。年は三十前後だと思うんだけど、なんかもう、年齢とか、超越してるみたいな感じ。
「すみません、食事より先に採寸になってしまいますか、よろしいですか?」
四ノ宮と話し合えて、オレに視線を向けた葛城さんに、慌てて頷いた。
「あ、もちろん。……なんだかすみません、オレまで……」
そう言うと、葛城さんはクスクス笑って見せた。
「私が、お誘いしたらと提案したんですよ」
え、そうなの? そんなの言ってたっけ?
そう思いながら四ノ宮を見上げると、四ノ宮は、ふ、と笑って見せる。
「大翔さん、パーティーにうんざりしていて、出たくないの一点張りでしたので、雪谷さんを誘ってみたらどうですか、と。スーツを着て頂けたら、良い宣伝になりそうだと思って。お似合いでしょうから」
「……似合わないと思うんですけど……」
「来て頂けることになって、感謝してます。大翔さんも、喜んでパーティーも参加してくれそうですし」
そう言って、葛城さんが四ノ宮を見る。四ノ宮は「早く行かないと、なんじゃねえの?」と葛城さんを急かした。苦笑いの葛城さんは、じゃあ行きましようかと言って、車のドアを開けてくれる。
「どうぞ、雪谷さん」
「あ、ありがとうございます」
車のドアを開けてもらって乗るとか、あんまり無い。急いで乗ろうと思ったところで、手に持っていた紙袋を思い出した。
「あ、葛城さん、これなんですけど」
「はい?」
「……あの、こないだ、ご迷惑かけてしまったので……」
「ご迷惑?」
「あの…………迎えに、来てもらって……すみませんでした」
ラブホの近くまで、と言えばすぐ分かってくれるんだろうけど、それは言わず、オレは、紙袋を葛城さんに近づけた。
すると。ふ、と柔らかく笑んで、葛城さんは受け取ってくれた。
「ありがとうございます、雪谷さん。せっかくなので、頂きます」
「あ、はいっ。日本酒にしたので……四ノ宮に選ぶの付き合ってもらって」
「大翔さんが選んだんですか?」
オレと葛城さんのやりとりを、見てた四ノ宮が、苦笑い。
「前に言ってたのにした。オレら、まだ飲んでないから分かんないし」
「そうですか。……お二人とも、ありがとうございます」
「いえ。こちらこそ。すみませんでした」
「全然。良かったんですが。お気持ちが嬉しいです」
そう言ってくれた葛城さんの笑顔に、かなりホッとしながら、再度促されて車に乗り込んだ。四ノ宮と葛城さんも乗車して、エンジンがかかる。
後部座席に並んで、シートベルトをしたところで、「出しますね」と葛城さんが言った。洋楽が流れて発車したところで、四ノ宮に、チラッと見られた。
「なに?」
「いや。……さっきの話、途中だったから」
そう言われて、思いだした。
「そうだ、何でオレが悪いの?」
小さな声で、言うと。
「おでことか、触られてへらへらしてたから。あれが無かったら、オレ、素通りしたんだけど」
「――――……」
四ノ宮の言葉を考えて、そのまま、四ノ宮を見て固まる。
……たしかに、ちょっとは思った。……なんか、タイミング悪い、て。
でもその後、そんなの変だよなーと、打ち消したような。
……でもやっぱり。
結局、タイミング悪かった、てこと……?
「……オレが眉間にしわ寄ってたから、解されただけだよ?」
「――――……だけ、じゃないし」
む、と四ノ宮が眉を寄せて。
不意にオレの方に手を伸ばしてきたと思ったら、オレの額に手をあてて、すり、と撫でてきた。
「……っ」
「気安く触らせンなっつーの」
……っなんなわけ、ほんと。
すぐ手を離されて、なんか面白くなさそうな顔のまま、反対側の窓から景色を見てる感じになった四ノ宮。
……もうなんか。
言いたいことはいっぱいある。マジで。
でも葛城さんも居るし。
この、今言いたいような気がする全部を言えるわけもないし。
むー……。ていうか。ヘラヘラなんてしてないし……。
ほんと。なんなの。お前。
ともだちにシェアしよう!