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第311話「何なの」*奏斗

 昼に四ノ宮に会って、なんだかちょっと納得いかない気分のまま、授業が終わって、裏の駐車場に向かった。 「奏斗」  駐車場に着く手前で、後ろから四ノ宮の声がして振り返ると、駆け寄ってきた。ちょっとムッとして見上げると、四ノ宮も、オレを見つめる。 「何でムッとしてんの?」 「……なんで昼さ、頭触るんだよ?」  そう言うと、四ノ宮は、「あれは奏斗が悪いでしょ」とか言ってくる。  何でオレが悪いの、と言い返したところで、少し先に停まっていた車から、葛城さんが出てきた。 「こんにちは」  その車に近づいて、挨拶をする。 「雪谷さん、こんにちは。大翔さんも、元気にしてますか」 「元気」  四ノ宮と葛城さんが話すのを聞きながら。  おお。今日もばっちり、カッコいいスーツ姿だ。やっぱりこの人をおじさん、とか表現するのは、かなり抵抗を感じる。年は三十前後だと思うんだけど、なんかもう、年齢とか、超越してるみたいな感じ。  「すみません、食事より先に採寸になってしまいますか、よろしいですか?」  四ノ宮と話し合えて、オレに視線を向けた葛城さんに、慌てて頷いた。 「あ、もちろん。……なんだかすみません、オレまで……」  そう言うと、葛城さんはクスクス笑って見せた。 「私が、お誘いしたらと提案したんですよ」  え、そうなの? そんなの言ってたっけ?  そう思いながら四ノ宮を見上げると、四ノ宮は、ふ、と笑って見せる。   「大翔さん、パーティーにうんざりしていて、出たくないの一点張りでしたので、雪谷さんを誘ってみたらどうですか、と。スーツを着て頂けたら、良い宣伝になりそうだと思って。お似合いでしょうから」 「……似合わないと思うんですけど……」 「来て頂けることになって、感謝してます。大翔さんも、喜んでパーティーも参加してくれそうですし」  そう言って、葛城さんが四ノ宮を見る。四ノ宮は「早く行かないと、なんじゃねえの?」と葛城さんを急かした。苦笑いの葛城さんは、じゃあ行きましようかと言って、車のドアを開けてくれる。 「どうぞ、雪谷さん」 「あ、ありがとうございます」  車のドアを開けてもらって乗るとか、あんまり無い。急いで乗ろうと思ったところで、手に持っていた紙袋を思い出した。 「あ、葛城さん、これなんですけど」 「はい?」 「……あの、こないだ、ご迷惑かけてしまったので……」 「ご迷惑?」 「あの…………迎えに、来てもらって……すみませんでした」  ラブホの近くまで、と言えばすぐ分かってくれるんだろうけど、それは言わず、オレは、紙袋を葛城さんに近づけた。  すると。ふ、と柔らかく笑んで、葛城さんは受け取ってくれた。 「ありがとうございます、雪谷さん。せっかくなので、頂きます」 「あ、はいっ。日本酒にしたので……四ノ宮に選ぶの付き合ってもらって」 「大翔さんが選んだんですか?」  オレと葛城さんのやりとりを、見てた四ノ宮が、苦笑い。 「前に言ってたのにした。オレら、まだ飲んでないから分かんないし」 「そうですか。……お二人とも、ありがとうございます」 「いえ。こちらこそ。すみませんでした」 「全然。良かったんですが。お気持ちが嬉しいです」  そう言ってくれた葛城さんの笑顔に、かなりホッとしながら、再度促されて車に乗り込んだ。四ノ宮と葛城さんも乗車して、エンジンがかかる。  後部座席に並んで、シートベルトをしたところで、「出しますね」と葛城さんが言った。洋楽が流れて発車したところで、四ノ宮に、チラッと見られた。 「なに?」 「いや。……さっきの話、途中だったから」  そう言われて、思いだした。 「そうだ、何でオレが悪いの?」  小さな声で、言うと。 「おでことか、触られてへらへらしてたから。あれが無かったら、オレ、素通りしたんだけど」 「――――……」  四ノ宮の言葉を考えて、そのまま、四ノ宮を見て固まる。  ……たしかに、ちょっとは思った。……なんか、タイミング悪い、て。  でもその後、そんなの変だよなーと、打ち消したような。  ……でもやっぱり。  結局、タイミング悪かった、てこと……? 「……オレが眉間にしわ寄ってたから、解されただけだよ?」 「――――……だけ、じゃないし」  む、と四ノ宮が眉を寄せて。   不意にオレの方に手を伸ばしてきたと思ったら、オレの額に手をあてて、すり、と撫でてきた。 「……っ」 「気安く触らせンなっつーの」  ……っなんなわけ、ほんと。  すぐ手を離されて、なんか面白くなさそうな顔のまま、反対側の窓から景色を見てる感じになった四ノ宮。  ……もうなんか。  言いたいことはいっぱいある。マジで。  でも葛城さんも居るし。  この、今言いたいような気がする全部を言えるわけもないし。  むー……。ていうか。ヘラヘラなんてしてないし……。  ほんと。なんなの。お前。    

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