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第312話「独占欲」*大翔

 ……しくじった。  今オレが言ったのって、まんま嫉妬じゃん。  ……ダサすぎる?  昼、食堂で奏斗を見つけた。もうなんだか一瞬で奏斗を見つけられるような気がする。  あ、奏斗だと思ったけど、声をかける気はなかった。先輩達と居たし、今日は帰りも待ち合わせしてるし。でもすぐ後ろを通ろううかなと思って、別に隣の通路でも良いところを、友達らの先頭に立って奏斗の後ろを通った。素通りするつもりだったのだが、奏斗はこっちを向いて友達と話して眉を寄せてて、変な顔してンなーと思った瞬間。 その友達の手が、奏斗の額に触れた。でもって、くすぐったい、とでも言うようにクスクス笑ってる奏斗。  ……ムカッとしたのが我慢できなくて、素通りしようと思ったのも忘れて、ぽん、と頭に手を置いてしまった。オレが近づいてるのに何も気づいてなかった奏斗は、びっくりした顔でオレを見上げた。  今、葛城の車に乗ってから、何で頭触るのなんて言われたけど。  ……つか何で触らせんのっつー話で。ムカつく。とオレは思ったし、今もそう思って、口に出したんだけど。  ……奏斗がびっくりした顔をして、更に何か言いたそうだけど、多分葛城が居るから、我慢してるみたいだった。  ……言葉に出してしまってから、あきらかに嫉妬っぽい言い方だった気がしてくる。気安く触らせんなって、オレ今別に彼氏でもないのに、独占欲丸出しみたいな。……言わなきゃよかった。と思ってるオレの横で、奏斗もなんだか黙ってる。  少し黙っていたら、何か感じ取ったのか、葛城がバックミラー越しに、こっちに視線を投げてきた。 「雪谷さんは、スーツを着る機会はありますか?」 「……ないです。入学式の時には着ましたけど」 「まあ、普通は着ないですよね」  そうですね、と奏斗が頷いてる。 「成人式は来年ですよね?」 「あ、はい」 「成人式でも着れるようなものを選んだらいいかもしれませんね。そしたら、パーティの後も使えますし」 「……奏斗、似合うと思うよ、スーツ」  我慢できなくなってそう言うと、さっきのまま、じろ、と見られる。  ぷ、と笑いが漏れてしまったオレに、むむ、と睨んでくるけど。奏斗がスーツ着るとこ想像すると、なんだかそこらへん吹き飛んで、楽しくなってきた。 「体に合わせて作ってもらうとほんと気持ちいいから。奏斗に似合うの、一緒に選ぼうね」 「って、四ノ宮も作るんだよね?」 「オレのは別になんでもいいから、奏斗のを選ぼ」 「大翔さんのもなんでも良くはないですけどね?」  苦笑いの葛城がツッコミを入れてくる。 「奏斗がすごい似合ってたら、それだって宣伝になるだろうし」 「そんなうまくいかないと思うけど……」 「いくって。絶対目立つと思うよ、奏斗」 「……ダントツ目立ちそうな奴に言われても……」  苦笑いの奏斗に、はは、と笑いながら。 「……あの場では、社長の息子で有名だから目立つけど、面倒なだけだし。まあ、奏斗が居るから今回はまあ、いっか。……ウマいもん食べて帰ろーね」 「――――……」  ちらっとオレを見て、奏斗はちょっとため息。 「雪谷さんは楽しんでもらっていいですけど、大翔さんは、少しは真面目にお願いしますね」  クスクス笑いながらも、釘をさしてくる葛城。  はいはい、と頷きながら。横で、葛城の言葉にふ、と笑った奏斗を見ると。  なんか楽しい。    ……似合うだろうな、スーツ。

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