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第313話「思わぬ登場」*大翔

 店の駐車場に着いて、葛城が車を停めた。奏斗と店の前に立つと、奏斗は、うわーと少し口を開けて店を見て、それからオレを見上げてきた。 「……思ってた以上に、オレ、場違いじゃない?」 「そんな事ないよ」 「なんかせめてもっと良い服着てくれば良かった気が……」 「全然大丈夫。オレも普段着だし。普通に大学帰りって知ってるし」  そう言いながら「話したろ?」と振り返ると、後からやってきた葛城も笑いながら頷いた。 「大丈夫ですよ。入りましょう」  葛城の言葉に、オレは奏斗の背に手を置いて一緒に店に入った。 「いらっしゃいませ」  何度か来ているけれど、いつも通り品のいい音楽が流れた静かな店内。  奏斗は横で少し固まってる。  ……慣れないよな、きっと。 「大翔さん、いらっしゃいませ」  もう何度めかのこの店のスタッフ。多分一番接客のできる人がいつもオレにつくんだと思う。社長の息子に変なところは見せられないんだろうとは思うけど。……別に、オレは関係ないんだけど。 「大翔さんのお友達ですね。ご来店ありがとうございます」 「あ、はい。よろしくお願いします」  戸惑いながらも、奏斗がそう返してる。   「こちらにどうぞ」  そう言われて、「奏斗、奥で採寸とかするから。行こ」と声をかけると、ん、と頷いてついてきた。案内された部屋のソファに、二人並んで腰かける。    普通なら、スタイリストと話して、どんな時に着るスーツかとか、好みやライフスタイルなんかのヒアリングをして、細かい好みなど聞く時間を取るらしいけど、大体オレが来る時は、そこらへんは事前に葛城が話してくれている。今回もそうで、もう創立記念のパーティーで着るものとして伝わっていて、多少目立つものを、と言いながら、生地の色見本を見せてくる。 「オレと奏斗で色わけよ。奏斗、どれがいい? オレ、違うのにする」 「色って言われても、なにが良いの?」 「別に決まってないから、好きな色、とりあえず選んで?」 「スーツで好きな色かぁ……」 「ネイビーとかグレーとか……黒も似合いそうだけど」  奏斗はオレが指さした色をんー、と見つめていたけど。 「ネイビーが好きかな……でもパーティーに合うのか分かんないし」 「別に似合ってればなんでもいいよ。てか、絶対似合うし」 「見たこと無いのに何を根拠に……」  奏斗が苦笑いを浮かべて、オレを見つめてくる。 「色を合わせてみますか?」  スタイリストが奏斗にそう言うので、そうしよ、と一緒に立ち上がった。  大きな鏡の前に立って、色見本の上着を奏斗に近づける。  右半身にネイビー、左にグレーを重ねた時。  コンコンとノックの音がして、部屋のドアが開いた。何気なく振り返ると、店員に続いて入ってきたのは――――……。 「は? ……姉貴?」  びっくりして言ったオレに、姉貴がにっこり笑う。奏斗がスーツの上着をあてられたままの形で、えっ?とオレを見つめてくるのが分かる。  後ろからひょっこり顔を出したちびっこが、オレを見て、笑顔。 「あ、ヒロくんー! わーい!!」  驚いてるオレに、飛びついてきたのは。 「うわ。|潤《じゅん》も居るのか」  小さい体を受け止めたオレを、これまた目をぱちくりさせながら奏斗が見ている。スタイリストが、あてていた色見本のスーツを奏斗から離した時、姉貴がネイビーの方を手に取った。  びっくりしてる奏斗に、ネイビーを当てて、鏡を一緒に振り返る。 「ごめんなさいね、邪魔してしまって」 「あ、いえ……」 「圧倒的にネイビーが似合う気がする。めちゃくちゃ可愛いわね、この子」  びっくりして固まってる奏斗を、かなり近くで笑顔で見つめる姉貴に。 「近いって」  潤を抱えたまま、奏斗の腕を引いて、オレの方に引き寄せた。

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