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第330話「ドキドキ?」*奏斗

「……ん、ん?」  少し体を起こされるように腕がまわってきて、眉を寄せる。目が開けられないでいるとすぐ唇が触れてきて、流し込まれる水を、ごく、と飲み込む。  ……こんな水の飲み方。四ノ宮としか、したことない。  何でこんな飲ませ方、すんの。  思うんだけど、だるくて、動けない。 「……ん」  もう一度飲まされた後、ペットボトルを置いたらしい四ノ宮の腕の中に引っ張り込まれてベッドに横になった。 「シャワー、明日浴びようね」 「……」  ほんとはいますぐ浴びたいけど、だるくて無理。小さく頷いた。 「……ちょっときつかった?」 「……ちょっとじゃない」  そう言うと、四ノ宮が少し笑って体が揺れる。 「ごめんね?」 「……謝るなら、そもそもしなくていいのに……」  大体にして、いつもきついし。  四ノ宮に抱かれるのは、真っ白になる位気持ちいいけど……なんかもう、感覚強すぎて怖いし。正直、いつもキツイ。 「んー? てか、加減できなくてごめんねってこと。したことじゃないよ」  ……ああ言えばこう言う……何かもう言い返す気、なくなる……。  ふーと息をついてから、ふと、言おうと思ってたことを思い出した。 「……なあ。四ノ宮」 「ん?」 「……オレ、多分なんだけど」 「うん」  なんて言おうか考えて黙ると、体を少し離されて、顔を見られた。 「何?」 「……オレ、もうしばらくクラブ行かないと思う……」 「ふうん……? それは嬉しいけど、なんで?」 「こないださ、クラブ行った時……声かけられて、触られたんだけど……なんか、気持ち悪くて。別に嫌いなタイプとかじゃなかったんだけど……でもなんか、背中触られるのも嫌でさ。だから、しばらくは行かないから」 「行かないから、何?」 「……もう、そのこと、心配してくれなくていいよ?」  そう言って、オレが四ノ宮を見つめると。 「……あのさあ。それ、どういう意味?」 「そのまんまの意味……」 「…………」 「代わりに抱く、とか、無くて大丈夫だから」  何だかちょっとだけ口を膨らませてるみたいに見える顔の四ノ宮に、そう言うと。 「奏斗」 「ん?」 「そういうこと、ずーっと、しないの?」 「え? なに?」 「一生誰にも抱かれない?」 「――――……」  それはちょっと……なんか寂しいけど。 「……でもなんか……四ノ宮と、今のままだとさ」 「ん」 「なんか……」 「うん」 「……セフレみたいで、なんか……」  なんかやだ、と言おうと思ったんだけど。  セフレ、と言った瞬間、なんかほんとに、四ノ宮が、ピシッと固まったのが分かって、それ以上言えなくなった。何を言われたわけでも無くて、オレは顔も見ずに言ったのに、なんだか、人の雰囲気が凍り付くとこ、初めて肌だけで感じたような気分。  やだ、まで言えずに口を閉ざしたオレに、四ノ宮もしばらくずっと黙っていた。  ………………寝ちゃった??  そんなわけないと思いながらも、あまりに長い沈黙に、そうも思い始めて、恐る恐る、見上げた瞬間。  何とも言えない、ちょっと困ったような四ノ宮の瞳と見つめ合う。  目が合うと、四ノ宮は、はー、とため息をついた。 「しの――――……ぅわ」  どさ、と背を枕に沈められて、四ノ宮を見上げる。四ノ宮は、オレの顔の両脇に手をついて、真上からオレをまっすぐに見つめた。 「セフレって言うのは、セックスだけする相手だろ」 「――――……」  ちょっと荒い口調に。  ……なんだか、少し、ドキ、とする。 「全然違うと思うんだけど」 「――――……う、ん」 「オレ、奏斗が大事だからね」  何だかすごく真剣に。まっすぐに、見つめられて。  何も言えず、瞬きを繰り返していると。四ノ宮は、ムッとした顔をして、そのまま、オレの肩に額を押し付けた。 「……セフレとか言わないでよ」  はあ、と、深い深い、息をつかれてしまって。ほんとに参ったな、みたいな口調で、そんな風に呟かれると。  ――――……なんか。  なんでか。  ドキドキ? ……してきて、何も言えないでいると。 「……めちゃくちゃ大事にしてるつもりなんだけど。足りないかぁ……」  そんなことを言いながら、四ノ宮はオレを抱き寄せて、またころん、とベッドに横になった。 「明日からもっと大事にしようかな……」  くす、と笑って、見つめられると。  ……なんかもう、大事にされてるけど、と口に出そうで。  なんかその答えもおかしい気がして、口に出せない。    セフレみたいって、頭の端でずっと思ってたけど。  ……言うんじゃなかった。あんな困った顔、させるとか。 「寝よ、奏斗」  四ノ宮はもういつも通りの顔をしていて、ふ、と笑むと、少し体を起こしてオレにキスした。  そのまますぐに離れて、オレを軽く抱いたまま、横になる。  少し黙った後。四ノ宮は、笑い交じりの息をつきながら、オレの髪の毛の中に手を入れて、くしゃくしゃと撫でてきた。 「……セフレって言ったこと、気にしてるでしょ」 「――――……」  …………何で分かるんだろ。 「……気にしなくていいよ。奏斗に何言われても、大丈夫。びっくりさせられんのも、結構慣れてるし」 「……何それ」 「びっくりすること、たくさんあったし。……自覚ないの?」  はは、と笑って、そのまま、すっぽり抱き締められる。 「――――……抱くのも全部……大事だからだよ」  そんなことを囁くように言いながら、頭を撫でられてると。  なんだか、すごく、胸が痛くて。  何だか、よく、分からないけど。  泣きそうになりながら。  目を閉じた。

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