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第335話「ニコニコ?」*大翔

 学校に来て、奏斗と別れて普通に授業中。二限目、今日は少し眠い。 『もうほんと……こうやって抱き締めるとか、おかしいからね?』  奏斗を抱きしめていた腕を解いた時、苦笑いの奏斗がそう言った。   そう? とか流して聞いたけど、今ふと、頭によみがえってきた。  おかしい、か。  ……まあ確かに。気づいたら抱き締めてるとか。おかしいかな。  …………でも仕方ない。抱き締めたいと思ったんだから。体が、勝手に動いてしまった。  「セフレ」は正直ショックだった。そんな風に思わせてて、ここからどうやって接していけばいいのかなあとは考えていた。  ……でも。  あんな風に、ちゃんと、謝ってくれた。  奏斗は、まっすぐだ。  色々あって、少しいびつなとこがあるけど、心の奥というか……本当の奏斗はまっすぐだと思う。押しに弱いとこあるけどそれも優しいからな気がするし、人が好きで……笑顔、可愛くて。曲がったこと、嫌いそう。挨拶もちゃんとするし、悪いことしたと思うと、ちゃんと謝る。……可愛いよな、ほんと。 「――――……」  頭ン中、奏斗のことばっか。  ……ほんと、不思議な位だけど。知れば知るほど、そんな感じ。  適当に話を聞きながら、ノートをとる。それでも、ふと奏斗のことが浮かぶ。 「今日はここまで」  不意に聞こえた教授の声。もうそんな時間か、と筆記具を片付ける。 「昼どーする?」  皆がいつものセリフを口にする。いつも通り一人が食べたいものを言うと、大体皆、そこでいいよという話になって、適当に一緒に歩き出した。 「なあ、大翔さ」 「ん?」  高校から一緒の仲間の一人が、隣に並んでそう言った。視線を向けて、その言葉を待つと。 「なんか今日、すっげえ機嫌良くない?」  そう言われた。 「…………」  しばらく無言で見つめ返す。  ていうか今日、こいつとそこまで喋ってねぇよな。何を根拠に……。 「何でそう思う?」 「なんか、ニコニコしてるから」 「――――……そうか?」  そんなつもりは、全くないのだけれど。  ニコニコ? 「さっきの授業の時、斜めからお前の顔見える位置に座ってたんだけどさ。笑ってたよな?」 「……オレ、笑ってた?」 「え、気付いてねーの? やっばー。何考えてたんだよ?」 「何って……」  今日考えてたことと言ったら。  ……ずっと、奏斗のこと、だけど。  朝。すごく困った顔で、でもまっすぐにオレを見て、ごめん、と言ってくれた顔と。その後、ほっとしたように緩んだ顔。  なんかあの顔が、ずっと頭の中にある。 「やっと好きな子、出来た、とか?」 「やっとって何だよ?」  引っかかった言葉にすぐ突っ込むと、はは、と笑われる。 「なんかさー、大翔はすげーモテて彼女も居たけどさ。あんま自分からは行かなかったじゃん。告られて付き合うけど、そんな好きじゃないのかなって思ってた」 「……好き、か……」  呟いて、固まっていると、また笑われて、背中をバシバシ叩かれた。 「応援するよー、めでたいじゃん、好きな子!」 「……そんな手放しで良かったとは……なんないんだけど」 「そーなの? 訳アリ?」 「……まあ。そうだな」  まだまだ心に和希が居るんだろうし。全然綺麗に吹っ切れてないし。誰とも付き合わない宣言してるし……好きな子出来て良かったとか、そんな簡単な話ではない。   「ますます応援する。んで? どこの誰?」  楽しそうに聞かれて、オレは、べ、と舌を見せた。 「絶対教えない」 「はー? 何なのお前。言えよー、応援するからさあー」  笑いながら言われたところで、電話がかかってきたのに気づいた。  スマホを見ると、葛城だった。学校に居る間にかかってくるのは珍しいな……。 「悪い、後から行く」 「おー」  皆から離れて、道の端に寄ると、通話ボタンを押した。

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