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第336話「しみじみ」*大翔
「葛城?」
『こんにちは、大翔さん。昼休みですよね? 今、大丈夫ですか?』
「ああ」
『お見合いの話なんですが』
「は?」
こんな時間にかけてきて、それかよ、と、力が抜ける。
「……またそれ? 行かないって」
『今日翔一さまと一緒なんですが』
「親父と?」
『一度会わないと断れそうにない雰囲気だそうで、今』
「無理。……あのさ、オレ実は昨日、奏斗にセフレみたいとか言われたんだよね」
『――――……』
セフレみたい、イコールそういうことを、あの時だけじゃなくて今も続けてしてる。それを言外ではあるけれど、はっきり伝えたつもりだった。多分伝わったんだろう、葛城は一瞬黙った。
「……そう言ったことは謝ってくれたけど、少しでもそんな風に思わせちゃったから、これからどう接していこうか考えてる訳。そんなのと会ってる暇ないし、会ったことが奏斗にバレたらどーしてくれんの。つか、絶対無理だから」
そう言うと、葛城は電話の向こうで「大翔さん……」と、苦笑い。
オレがそのセリフを、周りに人が居ないことを確かめながら言っていたら、少し先に奏斗を見つけた。奏斗もオレに気づいたみたいで、あ、と口を開けた。けれど、そのまま通り過ぎていこうとしてる感じがしたので、手招きをしてみると、ぴたっと足を止めて、ちょっと嫌そう。
来て来てと更に手招きをすると、少し戸惑った後で、周りに居た友達に何か告げてから、こっちにゆっくり歩いてくる。
「葛城、ごめん、オレ、急用」
『大翔さん、ちょ』
「断っといて、絶対無理って。じゃ」
電話を切って、ポケットに入れたところで、奏斗が側にやってきた。
「電話中なのに呼ぶなよな」
「もう用ないから切ったし」
「……何?」
「夕飯、オレんちで食べれる? 食べれるなら、用意したいものがあるんだけど」
「……何?」
「んー……奏斗、お祭りで何食べる?」
「は? 何、急に。相変わらず意味わかんないね」
クスクス笑って、奏斗がオレを見上げる。楽しそうに笑う顔、可愛く見える。
「お祭り……焼きそば。かき氷。りんご飴。お好み焼き……?」
「他には? 好きで食べるもの、全部言って」
「えー……。あ、じゃがバター、たこ焼きとか、焼き鳥とか……あ、フランクフルト」
「おっけ。分かった。オレん家で食べれる? 別に明日でもいいんだけど」
「……今日は喫茶店寄ろうって言ってたから。夕飯は、食べないと思う」
「喫茶店?」
「皆、でっかいパフェ食べたいんだって」
クスクス笑ってそう言う奏斗。
「へー、そっか。分かった。じゃあ夜、待ってるね」
「……ん」
きっと奏斗は、ほんとにいいのかなあ、とでも思ってるんだろうけど、それ以上は何も言わず、小さく頷いた。
背中をぽんぽんと軽く叩いて、奏斗を見送った。
後ろ姿見送ってると、ふ、と振り返る。バイバイ、と手を振ると、小さく頷いて、曲がって消えていった。
――――……好きな子。か。
……好きなのなんて、分かってる。
当然、好きだから、こんなに大事なんだし。
可愛くてしょうがないなんて、好きじゃなきゃ思わねーだろうし。
分かってはいた。
でもなんだか「好きな子」とか言葉ではっきり言われて、改めて奏斗を見ると。 ……好き、なのかぁと、しみじみ思ってしまった。
……和希のことなんか、さっさと忘れさせて。
オレのことしか、見えないくらいに、オレを好きになってもらうには、どうしたらいいんだろ。
……思えば、好きになってもらうために、どうしたら、なんて。
そんなの考えるの、人生初。
……何もしなくても、モテたしな。
口に出したら、ボコられそうだななんてことを思う。
……好きになってもらうために動くって。
難易度、すげえ高いな。……どーすんだ?
そんなことを考えながら、オレは食堂に向かって歩き出した。
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