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第339話「タイミング」*大翔

 ため息をつきながら、持ってたスマホを開いて奏斗の画面を開けた時。 「あの犬は……?」 「犬?」  ふ、と顔を上げると、ソファに座らせた二号を見ている親父。 「お前の趣味じゃないだろ?」  近づいて、抱き上げて正面から見つめている。  ……何で二号と親父が見つめ合うのを見なきゃいけないんだ。あーもう……。  親父は二号を抱いたまま、リビングの入り口で立ち止まってるオレの目の前に歩いてくる。 「付き合ってる人がいるってことか?」 「――――……」 「それで、会うのも無理なのか?」  葛城は何も言ってなかったけどな? と親父は二号を見ながら考え深げ。どんな図だ。  ……葛城は、言えなかったんだろうな、奏斗のことは。触れない方がいいと判断したんだろう。多分、それが正解。  電話、一回目のに出られれば、よかった。  きっと親父が来るって言いだしたから、オレに連絡したんだろうに。余計なもの、片付けときたかった。  スマホに手早く「呼ぶまでこないで。後で説明するから」と奏斗向けに打っている時、ふと、親父が静かなことに気づいて何気なく目を向けると。  親父の視線の先には、飾ってあった奏斗との遊園地の写真。  あーーーー……。  ……も、無理。心の中でがっくり脱力していると。 「こういうの飾るんだな、大翔」  心底意外そうに言われる。  ……いくら子育てノータッチだった父でも、それがオレらしくないことないこと位は、分かるだろうし。 「……というか、そもそも買ってくるというのが、らしくないな?」  ……返事が何も出てこない。というよりは、迂闊に何も言わない方がいいかなという思いの方が強い。  奏斗と付き合ってるなら、いっそ言ってしまうって選択肢も考えるが、こんな中途半端な関係がこんな感じで迂闊にバレるのは、ほんとにまずい気がする。真剣じゃないと思われるのも、絶対良くない。 「ていうかさ、こんな急に何しに来たの? 居なかったらどうするつもりで……?」 「会うだけでも良いって言ってるのに、話途中で電話切るから、直接来た。居なかったら、鍵開けて入って待とうかと思ってた」 「葛城は?」 「ここに呼んで、お茶でも飲んで待ってたかな」  はは、と可笑しそうに笑う親父。  ……やりてだった祖父に仕込まれただけあって、血も引いてるというのか、仕事はできるそうだが。結構自由な人だったりする。  母と見合い結婚で、でも見てる限りうまくやってきてるんだと思う。だからなのか、オレにも、見合いもいいもんだとよく言ってきてた。もともと家柄や趣味、性格、色んな情報も分かるし、家同士のつながりもできる。そういのも、親父は良かったらしいけど……。  あ。つか、奏斗に送らないとと思い出し、画面を見て送信ボタンを押した瞬間。玄関の方で、ガチャガチャ、と。鍵を開ける音が、聞こえた。 「四ノ宮ー来たよー」  のんきな声が……可愛いのだけれど。  今だけは、タイミング悪すぎると、もはやオレ、思考が。いや、息すらも止まっている気がする。  オレがリビングを出て、玄関の見えるところに顔を出すと、奏斗は靴を脱ぎかけた状態で、いつもは無い革靴に気づいたらしく、固まっていた。 「あ、四ノ宮。葛城さん、来てるとか? 後にした方がいい?」  オレを見つけて、無邪気な感じで笑って、そう聞いてくる。 「ごめん、実は……」  言いかけた時、後ろから、「こんばんは」と親父の声がかぶった。 「――――……」  顔を上げて、誰? という顔で、ただぽかん、とした後。  すぐに、「あ、お父さん?」と、口にした。 「大翔の父です。初めまして」 「あ。どうも。雪谷 奏斗です。えーと……大学が一緒で……隣人、です」  奏斗は人懐こい笑顔でそう言って、初めまして、と頭を軽く下げた。  あれ、意外と普通だな。焦るかと思ったけど、と考えて、ああ、そっかと気づく。  奏斗の方には、オレとどうかなろうなんて気はないから、オレ程はうろたえないのか。よし、なんか複雑だけど、今はそれでいいや。なんとか隣人で先輩ってことで乗り切ろう。  と思ったところで、ふと気づく。  ……あーさっきの写真どうすっか……。  あれはもう、ギャグで飾ったってことにするしかないか。よし、もうそれでいこう。  「まあどうぞあがって」と奏斗に向けて笑ってる父に、オレは、早く追い出そうと決意を固めた。     

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