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第340話「普通」*奏斗
何を準備してるのかしらないけど、なんだかすごく楽しそうだったし、手が離せないかもって言うから、今日は鍵、使って入ってもいいかなと思った。
朝も、四ノ宮の鍵を借りて行き来したけど、渡された鍵を使うのは初めてで、ちょっとドアの前で考えた。
勝手に入るって、どんな感じで入ればいいんだろう。今さっきまで一緒だったのに、こんばんはも変だし。
……普通、こういう時って。どうするっけ。普通。
なんか勝手に開けて、勝手に入っていくの、変だよね。
そう思い悩みながら、鍵を開けた。
「四ノ宮ー来たよー」
そう声をかけてから鍵を閉めて、そのまま「入るよー」と声をかけようとしたその時。
革靴。珍しいな。
……あ、葛城さんかな? たまに来るって言ってたもんね。と思って、葛城さんなら、入っても大丈夫かな? と思ったけど、でもさっきそんなこと言ってなかったし、急用?どうだろ? と考えてるところに、四ノ宮がやってきた。
「ごめん、実は……」
四ノ宮が言いかけた後ろから、葛城さんじゃない男の人が現れた。
最初は誰だろうと思ったんだけど、あ、なんか似てる。そう思ったら、やっぱり、四ノ宮のお父さんだった。
初めまして、なんて笑顔で言われて、なるべく普通に返しながらも、内心すごく焦ってる。
……だって、オレ今、人んちの鍵を勝手に開けて入ってきた、変な奴。じゃないかな。えっと、どうしよう。オレが勝手に中に入る理由ある?
そう思って、とりあえず、「隣人」です、とだけ付け加えてみたりする。
隣の仲良い人なら、鍵、ちょっと貸したりってある、かも?とか。
……ないかな、どうなんだろ、分かんない。
なんか四ノ宮は、ちょっと困った顔をオレに向けてる気がする。
……お父さん、急に来たんだよな、きっと。
とりあえず普通に挨拶を済ませて、一旦帰ろうかなと思ったのだけれど、まあ上がってと四ノ宮のお父さんに言われて、断り切れずに中に入ることになってしまった。
うーわ。
……マジどうしよう。ナニコレ。
き、気まずい。
……四ノ宮と今、あんまり良くない関係で居るから。
え、四ノ宮は平気なのかな。
オレ、ものすごく、気まずいけど。
……そんなの悟らせるわけにはいかないから、思い切り愛想よく明るく、ただの先輩を演じて、乗り切ることに決めたけど。
気まずすぎる。
四ノ宮は宇宙人だから、お父さんに関係ないとか思うかもだし、なんか、もう今何考えてるか全然分かんないけど。でもちょっと困ってる……?
ふ、と手に持ってたスマホが光ってることに気づいた。あ、さっき鍵開けてる時に入ったやつか。さっと確認すると、四ノ宮から、良いって言うまで来ないで的なメッセージが入っていた。
……うわ。
……ていうか……遅いよ、四ノ宮、もっと早く送ってよ。
てことは、四ノ宮もやっぱりあんまり来てほしくなかったってことか。
わーマジで。早く家に、帰りたい。
帰りたいけど……。
とにかく。四ノ宮が普通を装うなら、オレも、ひたすらそれで合わせよう。
良く分からないけれど、そう、決めた。
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