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第348話「むむむ」*奏斗

 二人で一緒に片づけを終えると、四ノ宮が時計を見上げながら、ふ、と息をついた。 「やっぱりこういうのって食べるの時間かかるよね」 「ん。もうこんな時間か。合宿の、少し考えようと思ったのにな」 「それもそうだけど……奏斗、シャワー浴びたい?」 「え。あ、たこ焼きくさい?」  苦笑しながら聞くと、「分かんない」と四ノ宮。 「同じ匂いしてると自分たちでは分かんないよね」  と続けてクスクス笑ってる。 「どうしようかなあ。浴びた方がいいかな?」 「まあ別に、明日、同じ匂いしてくのもいいけど」 「あ、オレ、家で浴びる」  スマホを手に持ちながらオレが即答で言うと、は?と四ノ宮がムッとする。 「何なのその即答ー。そんな嫌?」 「嫌だよ、同じ匂いとか。じゃあ、ごちそうさまでしたー」 「待って待って、そのまま家で寝ないよね?」  二の腕を掴まれて、引き戻されると、四ノ宮の体に、とん、と寄りかかる感じになってしまった。 「――――……」  なんか。すごく。どき、と震えた心臓。  ……何。意味分かんね。 「……眠くなったら、そのまま寝るかも」 「ちゃんとこっち来てね?」 「たまには広々寝たいし」 「こっちでそうやって寝ていいよ」 「お前居て、狭い」  何だか、憎まれ口をたたいてしまう。 「はー、もー……」  ちょっと疲れたような笑い声がして。  二の腕を掴んでた手が外れたと思ったら、そのまま前に回ってきて、後ろからぎゅーっと抱き締められた。 「……帰ってこないなら、帰してあげない」 「は? 何言ってン」  ムッとしたオレが文句を言いながら振り返ろうとすると、手はすぐに離れた。四ノ宮の方を振り仰いで続けようとした言葉は、四ノ宮の唇に、奪われた。……ということに気づいた時には、もう、深く重なってて。 「……ん、ぅ」  こ、のやろ。  そう思って離れようとしたけれど、手を押さえられて、かと思うと、何やらうまくうなじを押さえた手のせいで、動けない。 「…………っ……」  舌が絡んで来る。しばらくキスされて。声は抑えて、きつくつむっていた目を、キスが離れると同時に開く。まっすぐな四ノ宮の瞳と、ぶつかる。 「帰ってこないなら、うちで一緒にシャワーにしよ?」  じっと見つめてくる瞳は、有無を言わせない感が強い。  ……むかつく。 「キス、やだってば……」  口に両手を押し当てて、ぐい、と押しのけると、四ノ宮はクッと笑い出す。 「何その避け方……」 「もう、ほんとやだ。帰る」 「待ってるからね? 来るまで」 「……知らないし」  四ノ宮の近くからさっと引いて、今度は邪魔されずに玄関に向かう。  なにやら笑いながら、後ろを歩いてくる四ノ宮は。 「ずっと待ってるからね」  とか言って、ふ、と笑いながら、バイバイしてくる。   「待たなくていいし」 「……コーヒー飲みたいなぁ」  ぴた、と止まって四ノ宮を振り返ると。四ノ宮は腕組みをしながら、んー、と思い出すようなそぶりをする。 「今日超重かったけど、頑張ってたこ焼きのプレートとか持って帰ってきたなぁ。頑張ってタコも切ったなぁ……」  むむむ。 「奏斗のコーヒー飲みたいんだけどなぁ……」  言いながら、斜めにオレを見下ろしてきて、微笑む。 「……っ……分かったよ、もう……」  悔しいけど、そんな感じで言われたら、なんだか断りにくい。  くそー。 「……今日、コーヒー飲んだら、ゼミの考えて、寝るから!」 「ん、OKー」 「ほんと、絶対寝るからな!」 「いいよってば。……何警戒してンの?」  クスクスからかうように言われて、むむむむむと眉を寄せる。  オレはもう何も言わず、四ノ宮の部屋を後にした。  

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