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第349話「感謝」*奏斗

 四ノ宮の家から戻ってきて、シャワーを浴びて、髪をざっと乾かした。  コーヒーを淹れ始めて、ぼー、と落ちていくのを眺めていると。  ……なんか思うのだけど。  オレってば、四ノ宮のなすがままのような。  ……気のせい?  うーん。  うーんうーんうーん……。  なんか全部、断れないし。  全部四ノ宮の言う通りになってるような……。  は。あれはあれなのか、会社のトップに立っちゃうような社長の血を引いてるってことなのか。人を動かす術を自然と……。  そこまで考えて、なんか自分があほっぽく思えて、ため息。  まあ普段学校とかでのあいつを見てると、そんなようなところも、あるような気はする。けど。  オレとあいつの間では……そういうのじゃなくて。  結局、オレが四ノ宮に弱いんだ。と、思う……。  何なの、あいつ。  ……すごくえらそーな時もあるのに、なんか可愛くなったり、むかつく時も多いのに、時々すごく優しくなったり、なんかコロコロ変わってついていけない。  ほんと、宇宙人みたい。言ってることもたまに全然意味分かんないし。  四ノ宮の、見合いとかもさ……オレには関係ないんだよ。別に付き合ってる訳じゃないし、付き合う気もないし。……別に付き合ってって言われてる訳でもない。あいつは、オレのことが大事だって言うけど……。  大事って、何だろうなぁ……。  オレも別に、大事じゃない訳じゃないけど。こんなにずっと一緒に居て、不本意でも何度も触れあってるし、特別じゃない訳は、ない。  でも。……なんて言っても、四ノ宮は、ノンケだ。  男のオレとは、どうにもならない。  もう、間違いなく、今だけの関係だ。  オレ、自分でも分かってる。  四ノ宮と色々話してたりしてるおかげで、前より不安定じゃなくなってる。  ……大事大事って、意味、分かんないけど。  でもそのおかげで……なんか。自分のこと。否定する暇も、ない、というのかな。一人でぼーと、嫌なこと考える憂鬱な時間が、無くなった、というか。  ……こないだ、和希に会った時は。  びっくりすぎて、混乱はしてたけど。  四ノ宮が、隣に居てくれて、大丈夫って言ってくれてたら、落ち着いた。  多分あれ、四ノ宮と話す前のオレが、一人で会っていたら。  もうあの後もオレ、絶対、もう、色々無理だったと思う。  例えば和希に、謝られたとしても、万一、よりを戻そうとかの方だったとしても、どっちも絶対無理で。  ……クラブ、行っちゃったしな、あの後。四ノ宮が居ても、行った。  でも、それでも、四ノ宮が居たから。  自棄になって誰かと関係を持ったりせずに、あの日は帰ってこれた。    四ノ宮が居なかったら、クラブ通い詰めてたかもしんないよなー……と、思う自分が居る……のは確かなんだけれど。  ……四ノ宮に感謝、してるから。  むかつく時もあるけど、なんか色々断れない。  でも。  こんな関係は、四ノ宮に普通に好きな女の子が出来たら、すぐ変わるんだと思う。なんか四ノ宮、かなりひねくれてるけど。四ノ宮が素を出せるようになったら、ほんとに、四ノ宮のことを好きになる子も居るだろうし、そしたら、四ノ宮だって、オレに構ってる暇なんてなくなる。  ……いつまでかなあ、こんな風に、一緒に居るの。  たまっていくコーヒーを眺めながら、なんとなく、ふ、と苦く、微笑む。  ずっと居る、とか。  言ってるけど。  ほんと、四ノ宮の、馬鹿宮……。  ……四ノ宮と居なくなったら、二号、譲ってもらおー。  あの感触、落ち着くし。 

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