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第350話「いらなくなったら」*奏斗
なんだか色んなことを考えながらコーヒーを淹れ終えたオレは四ノ宮の部屋をまた訪ねてきた。コーヒーをマグカップに注いで、二人で並んでテーブルに座ったところ。
並んで座るのも慣れてるのが、やっぱり変だよな、とは思うけど。
「まだ濡れてるよ、髪」
ふわ、と髪に触れられる。少し引いてその手を避けながら、「これくらい平気」と言うと、「後でちゃんと乾かして良い?」と言ってくる。
「その内乾くよ」
言うと、ふ、と息をついて、四ノ宮が手を引っ込める。
「コーヒー飲んだら乾かそうよ。奏斗の髪、乾かしたての時、フワフワしてて可愛いよね」
「……可愛くないし」
眉を寄せると、四ノ宮は面白そうに笑いながらオレを見るので、なんとなく視線を外すと。さっき裏返しで伏せたままの、遊園地の写真が目に入った。
「写真、リビングに飾るのはやめた方がいいと思うんだけど……ていうかリビングじゃなくても変だと思うし」
「別にいいよ。もう見られたし。あの二人以外、うちに入って来ないし」
「友達とかは?」
「外で会えばいいし。うちん中はプライベート空間」
「――――……」
それって……オレはいいの?? 何でオレはお前のプライベート空間にずっと居るんだってば。
聞きたい気がしたけど、結局聞かずに、言葉と一緒にコーヒーを飲み込んだ。
「写真よりもさ。何で、奏斗に聞いてんだろうね、二号のこと」
四ノ宮がクスクス笑うけど、そんなの決まってるし。
「四ノ宮が自分のために買うとは、絶対思えないからだよね。オレが出入りしてるなら、何かしらオレが知ってるって思ったんじゃないの……」
「別にオレがあれ、自分のために持ってたって――――……」
そこまで言ってから、四ノ宮は黙って、自分の口元を抑えた。
「……無いか」
ぼそ、と言って、笑ってる。
「……無いよね」
オレも、同じようにぼそっと呟いて、ふ、と苦笑い。
その時、さっき考えていたことを、ふと思い出した。
「あ、なあ、二号なんだけどさ」
「ん」
「四ノ宮が要らなくなったら、オレ、貰っていい?」
「……いい、けど……気に入ってんの?」
「触り心地、すごく良いから」
「……ふぅん」
頷いたまま、四ノ宮はそのまま黙った。
不思議に思って、四ノ宮を見つめていると、四ノ宮はオレをまっすぐに見つめる。
「あのさぁ……」
「?」
「……要らなくなったらって、どういう意味?」
まっすぐな視線に、とっさに何も言えなくて、ただ見つめ返す。
どういう意味って……。
……どういう意味だろ。えーと……?
「奏斗がうちに来る限り、うちに必要だよね? 気に入ってんでしょ?」
「――――……」
「それ前提で要らなくなるってことは……何? 奏斗、オレんとこに来なくなるってこと?」
「……いや……あの」
なんか、視線が痛い。声も、なんか、ちょっと低い感じで。
なんだかとっても……すごく、圧を感じるような。
確かにそういうようなこと、考えてて、そうなったらと思ってたけど。
……なんか言える雰囲気じゃない。
「でっかくて、邪魔だよね? だから、いらないって思ったら」
「まあデカいけどさ……」
辛うじて言った言葉に、四ノ宮はそう答えて。それから、む、と口をつぐんだ。
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