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第351話「何で」*奏斗

 少しの間黙っていた四ノ宮は、息をつきながら、首を振った。 「……やっぱ、あげない」 「え?」 「二号あげないよ。ここで、あれの側に居ればいいじゃん。ずっと」  四ノ宮は、なんだか、ムッとしたみたいな。そんな感じなのだけれど。  でもオレを、まっすぐ見つめて、そう言った。  ――――……ああ、なんだかな。まただ。  ……胸、痛いような。良く分かんない感覚。  そんなずっと、居れるわけないじゃん。と、思う。  でもそれを言っても、今の四ノ宮は、居るって言うだけなんだろうなと思ったら、言葉にしても無駄な気がして、オレは、黙ったまま曖昧に頷いて、コーヒーを飲んだ。  なんだか、四ノ宮に向けて言おうと思うのに飲み込む言葉が、日々増えていくような気がする。どうしてだろ。言えばいいのに。 「――――……」  何で、言葉、出ないんだろう。    少し俯きかけた時。  不意に伸びてきた四ノ宮の両手が、オレの頬に触れて、ぶに、と横に引き延ばした。 「いだ……ぁにすん……」 「どーせ、居なくなるとか、思ってんだろうけどさ」 「――――……」  オレの頬を横に伸ばしたまま。  超至近距離まで寄ってきた四ノ宮は、オレをまっすぐに覗き込んだ。 「オレはずっと居るつもりだから。覚えといて」 「…………」  何も言えないでいると、四ノ宮は、オレの頬を離して、すり、と撫でた。 「別に今信じなくてもいいけど。ちゃんと、覚えといてね」  瞬きを何度か。  ……なんだか分からないけど。胸がぎゅ、と痛い、ような。  視線をそらして、俯いて、また瞬き。  そうしないと、なんだか、涙が出そう、で。何でだろう。いや、泣かないけど、でもなんか……喉の奥が、すごく、痛い。 「ぜ……」 「ん?」 「全然……意味、わかんない」  オレの言葉を聞くと、四ノ宮は、苦笑い。 「何でだよ? 分かるでしょ」  俯いてる頭を、ぐりぐりこねられるみたいに、撫でられる。 「分かっといてくださいよ。ちゃんと。――……雪谷先輩?」  からかうように言いながら、髪をクシャクシャされる。  久しぶりに、雪谷先輩、て呼ばれた。  ……少し前まではそれで呼ばれてて。  ゼミ以外は話すことも無かったのに。 「先輩なんだからさ。可愛い後輩の言うこと、ちゃんと聞いてね」 「……可愛い後輩なんて、どこに居んの……」 「はー? 目の前に居るよね?」 「……見えないけど」  言うと、四ノ宮は、ははっと笑って、見えてるくせにーとか言ってる。  オレは、乱れた髪を整えてから、マグカップを手に取った。  ……可愛くないし。全然。  そう思うんだけど。  ……少し前までは、話すことすら、無かったのに。  なんでこんなに、四ノ宮のことばっかり、頭にあるんだろ。  すぐ隣で、クスクス笑ってる四ノ宮に、何も言えず、またコーヒーに口をつけた。

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