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第352話「別人みたい」*奏斗
コーヒーを飲み終えて片付けてから、ソファで二号を抱いて座ると、四ノ宮がドライヤーを持ってきた。
「向こう向いて」
言われて、四ノ宮に背を向ける。電源が入って、あったかい風が髪にかかって、ふわふわ触れられる。
「ちゃんと乾かそうね」
そんな声が聞こえて、オレは返事をしないまま、前に抱えた二号に寄りかかる。
……二号の感触も、頭も、両方気持ちいー。
声に出したらそんな感じなんだけど、言わずに、目をつむっていると、しばらくしてドライヤーが止まった。
「はい、乾いた」
笑みを含んだ声。コンセントを抜いてる四ノ宮に、ありがと、と言うと、どういたしましてと微笑む。
なんかほんとに、話すようになった頃の四ノ宮とは、別人みたいな気がする。
最初の頃の四ノ宮って、なんかよく怒ってるみたいな顔してて、眉間にシワ寄せてさ、何考えてるかもよく分かんないこと、多かったのに。こんなに世話好きとか。こんな感じで微笑むとか。……胡散臭い笑みとも、違う。
そんなこと考えてると、四ノ宮はオレを笑いながら見下ろした。
「何か言いたいことあるよね。何?」
「え。と……男同士で、髪乾かすとか、普通しないよなーて」
「まーそうだね。奏斗じゃなかったら絶対しない」
苦笑する四ノ宮に、また、何でオレにはするんだろ。と浮かぶ。
……特別、みたいに、言うの。少し困る。
「奏斗の髪は、ずーっと乾かしてあげるよ」
「……」
またそういうこと言う。
「ずっとって?」
「ほんとずっと」
「……オレがはげたら?」
「――――……」
四ノ宮はきょとん、としてから、ぷは、と笑う。
「えー……それはどうしようかな……そん時だけ、ちょっと対応考える」
クックッと笑いながら、ドライヤーを片付けに消えてしまう。
……あほか、オレ。
何が聞きたかったんだ。
めちゃくちゃ笑いながら四ノ宮が消えていったドアを見つけながら、二号をぺちゃんこに潰す。
すぐ部屋に戻ってきた四ノ宮は、「さっきのほんと何?」とまだ笑いながら、スマホを持って近づいてくると、隣に座った。
「合宿のメール、ざっとしか読んでないからちょっと読む。もともと合宿の宿題なんて無かったのにこんな近くなってからどうしたんだろうね……」
言いながら視線を落として、椿先生からのメッセージを黙って読んでる四ノ宮。オレも、読み終わるのを待って、二号を顎で潰していると。
「んー……基本は合宿でやるけど、事前に少し考えまとめててこいって感じかぁ。だから緩くてもいいってことか。合宿一泊だから、ついてから考えてる時間あんまりないのかもね」
「ね、そんな感じだよな……」
「考えた?」
「んー。まあ、少しは考えたけど。明日、図書館もやっぱ行くつもり」
「一緒に行く」
「……」
オレが黙ると、何その顔、と四ノ宮が笑う。
「一年とどうぞって思って……」
「こないだだって皆で一緒にやったじゃん」
「だって、今回は別に話し合ってどうこうじゃねーもん」
「――――……」
四ノ宮がムッとして少し黙って、スマホ、ポチポチしだすのを何となく眺めながら、あーなんか眠くなってきた、と思ってると。
「相川先輩たち、オッケーって」
がく。力が抜けて、二号をさらに押しつぶす。
誰に連絡してんのかと思ったら。小太郎たちか……。
「ゼミのグループに送ったの?」
「そう」
ニコニコしてる四ノ宮を見ながら、もーいいや。と諦めた。
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