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第354話「調子狂う」*奏斗

 ◇ ◇ ◇ ◇  朝は四ノ宮の作ったご飯を一緒に食べて、一緒に登校。  授業は別だったけど、放課後の今は、一緒に図書館に居る。  四ノ宮と一年達は四人とも来てる。  オレ達二年は、十二人中五人。計九人で図書館の学習室を借りて、静かに本を読んでる。読み終えて、本を取りかえにいく人がいるくらいで、皆、静か。  席は机が四角くなるように並んでて、オレの隣は小太郎で、四ノ宮は少し離れてオレの正面に居る。これはたまたま。なんとなく座ったらそうなっただけ。  肘をついた姿勢で、本のページをめくってると、ふと、目の前で四ノ宮が隣に座ってる笠井と話してる気配。  ちら、と一瞬だけ視線を流す。  一年は男子二人、女子二人。その内一人の、|笠井 里穂《かさい りほ》は、多分というか。確実に、四ノ宮のことが、好きなのだと思う。  前から知ってる。  何かと隣に行くし。ゼミの時も近くに座るし、ゼミの後の食事の時も。そういえば近くにいるなーって感じ。  たまに見かける学内で、一年が固まって移動してる時とかも、よく同じグループに見かける気がする。  ゼミも学部も一緒で、授業が同じっていうのも、あるだろうけど。  ――……まあ。今話してる感じを見たって、その好意は明らかで。  というか。四ノ宮のことを好きな子なんて、そりゃいっぱい居るから、今更。オレが知ってるのなんてほんの一部。  まあ。……モテるだろうなと思ってるし、完全に今更。  ……って、別に。オレだって、モテるけど!  と、何だか心の中で張り合ってみるが、女子にモテても無意味なのにと、自分でわざわざモヤモヤすることを考えたりする。  ダメだ。この本、つまんねー。  ……違うのにしよ。  パタン、と本を閉じて、立ち上がると、静かに部屋を出た。  大体、前みたいに話し合うとかではなくて、それぞれが読みたい本で少し事前に考えていくってだけなんだから……皆で来る必要、無かったのに。  そんな風に思いながら、持っていた本を棚に戻して、そのまま、次の本を目で探す。  先帰ろうかな。なんかもう、大体考えること決まってるし。明日ゼミで椿先生の話聞いてから、また図書館に寄ってもいいし。合宿の前だから食事はないだろうし。  ――――……なんかちょっと疲れた。 「あ。居た」  不意に現れた人影と声にそちらを向けば。声で分かってたけど、四ノ宮で。 「奏斗、今日」 「……先輩」 「え?」  四ノ宮がきょとんとしてオレを見下ろす。 「外では、先輩だろ。……皆居るんだしさ」 「…はー。………雪谷先輩」  ため息のあとなのに、めちゃくちゃにっこり笑って、最後ハートマークでもつきそうな言い方で、オレを呼んだ四ノ宮に、ぞわ、として、思わず退くと。 「ひどくない? 自分で言ったんじゃん」    こそこそと、文句を言ってくる四ノ宮に、眉を寄せる。 「だって気持ち悪いし」 「ひっでー……」  苦笑いの四ノ宮。 「で、先輩は、夕飯は?」 「さあ。……決めてない」  こういう時はたいていそのままご飯行くことも多いけど。  合宿明後日だし、準備もあるかもだし、行かないかな。  ていうか、オレは帰りたい。 「四ノ宮は、一年と行くの?」 「さっき里穂には誘われたけど、奏斗に聞いてからと思って」  それを聞いて、ふ、と。  ……なんか。  オレに聞いてから……。その言葉に、よく分からない気持ちになる。 「――――……」  黙ったオレを、理由は知らない四ノ宮が覗き込んでくる。 「奏斗?」 「……奏斗、じゃないし」 「ああ、またそれ?……はいはい」  苦笑いの四ノ宮は。 「先輩に聞いてからと思って……って、これ、言い直す意味、あんの? 今誰も周りに居ないし」  そう言って、クスクス笑う。 「帰って一緒に食べる?」 「――――……」  ほんとに、良く分からないけど。  でもオレ今日、疲れてるし。帰りたいし。 「うん」  じっと四ノ宮を見上げたまま頷くと、誘ってきてたくせに、なんだか不思議そうな顔でオレを見る。でもって、それから。 「何食べたいか考えといて。好きなもの、作るから。マンションの下の店寄ろ?」  何だか、すごく、嬉しそうに笑う。  ……四ノ宮のくせに。  なんかそんなにまっすぐに。ニコニコされると。  調子、狂う。

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