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第355話「仲良くない」*奏斗
「奏斗……先輩は、本借りてく?」
「……いいよもう……今誰も居ないし」
はー、とため息をつくと。
「奏斗が言ったんじゃん」
クスクス笑う四ノ宮。
ちら、と四ノ宮を見上げる。
「……良いの、誘われてるのは」
「いいよ別に。どうせ明後日、合宿で皆一緒だし」
……それ言ったら、オレも合宿一緒だし、ていうか、むしろオレとお前、今すごくずっと、一緒だけど。
心の中でそんなことを思うけど、何も言葉には出てこない。
「本、一冊借りてく」
「じゃあオレも奏斗が読んでる間は何か読もうかな……」
そんな風に言いながら、四ノ宮も隣で本を探し始める。
……オレが読んでる間はって……。
その言葉に引っかかって、四ノ宮をチラ見すると、四ノ宮は、ん?とオレを覗き込んでくる。
「何か言いたい?」
「……オレが読んでる間はって言ったじゃん」
「うん」
「オレ別に、一緒に読むなんて言ってないけど」
「え、何で? ……っていうか、ごはん食べたら、一緒にコーヒー飲みながら読書タイムしようよ」
「……なんか当たり前みたいに言うから」
「当たり前にしよ」
言い淀むことも考えることも何もなく、四ノ宮はそう言う。
「……当たり前とか、わかんない」
「何が?」
クスクス笑いながら、四ノ宮は本を探してる。
もういいや、と思って、オレも本のタイトルを眺めていると。
「オレ、一生こんな感じで居れたらいいって思ってるし」
「――――……」
「マジだからね」
ふと、まじめな顔でそんなことを言う。
「やっぱ、意味わかんない……」
「もー何でだよ」
四ノ宮は後頭部を搔きながら、ふ、と息をつく。
「……まいっか。オレ、さっきの嬉しかったし」
「さっきのって?」
「一緒に食べるって頷いてくれたの、嬉しかったから、今日は他に何て言われても、全然いいや」
「――――……」
さっきの? ……あれ、そんなに嬉しいの?
不思議に思いながら見上げていると。
「だって素直に頷いてくれるの、珍しいからね、奏斗」
「……オレ、いつも素直ですけど」
「嘘ばっか。奏斗は素直じゃないよ」
四ノ宮はクスクス笑う。
「だからたまに素直なの、可愛いよね」
「可愛い言うな」
そんな意味不明なやり取りをしながら一冊ずつ本を選んで、部屋に戻る。
四ノ宮は席に着くと、隣の笠井に小声で話しかけて、多分、食事を断ってるみたい。
「小太郎、オレそろそろ帰ろうかなって思って」
「え、もう帰る?」
「うん、ごめん、なんか疲れてて」
「そっか。明後日合宿だし休んだ方がいいかもね。一人で帰れる?」
「別に具合悪いわけじゃないから……」
笑顔でそう言いかけた時、四ノ宮が「相川先輩、オレ、一緒に帰るので大丈夫ですよ」と笑った。
「あ、そうなの?」
「あ。うん、まあ。そろそろ帰ろうかって話になって」
「仲いいね」
小太郎がクスクス笑いながら言う。
他意、無いのは分かってるんだけど……。
「別に良くないけど」
とっさに言ってしまうと、そっか、と言いながらまた小太郎は笑う。
「四ノ宮、ユキ、よろしく。オレもうちょっと本見たいし」
「はーい。 先輩、帰りましょ」
オレの隣に立つ四ノ宮を見ながら、一応頷いて、机の上の物を片付けた。
「じゃあまた明日」
そう言って皆と別れて、四ノ宮と一緒に部屋を出る。階段を下りながら、四ノ宮がオレと視線を合わせて、ちょっと苦笑い。
「ねーねー、先輩? ……仲良くないっていう必要ある?」
「ある」
「無いと思うんだけど。 いいじゃん、超仲良しですって言っとけば」
「やだ」
「ほんとにさぁ……ちょっと傷つくかんね? オレ」
「――――……」
え。そうなの?
少し困って、四ノ宮を見上げると。
四ノ宮はすぐ、ふ、と笑んだ。
「そんなので傷つかないからへーき。ほら、そうやって、気にするんだからさぁ」
「もー気にしないし。むかつく」
図書館のドアを出ながら、ぷい、と顔を背けると。腕を掴まれて、引き寄せられた。
「気にするんだから、さっきみたいに素直になっててよ。すげー可愛いから」
「っ……可愛い言うなってば。あと、近いって」
めちゃくちゃ近くで囁かれて、睨むと、四ノ宮はクスクス笑った。
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