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第359話「理由」*大翔 ※
◇ ◇ ◇ ◇
「……っんん、……ふ、ぁ……っ」
ベッドに組み敷いて、最後は深くキスしたまま、奏斗の中でイった。奏斗もほぼ同時で達して、その激しさのまま、しばらくキスを交わす。
ゆっくり中から抜いて、ゴムの始末。奏斗は、荒い息を抑えるみたいに、拳を口に当てて、少し体を起こした。
「……っ……」
目が合うと、少し気まずそうに、ふ、とベッドに視線を落とした。
頬に触れて、キスをする。キスくらいでは嫌がらないけど……なんだかすごく、じっと、何か言いたげに見つめられる。
「タオル、濡らしてくるね。水も持ってくるから、待ってて」
「……」
何も言わずオレを見上げて、素直に小さく頷く。オレはズボンをはいて寝室を出た。
……奏斗がまだ色々考えながら、オレに抱かれてるんだってことは分かってる。付き合ってる訳じゃないし。つか、誰とも付き合わないって、奏斗はずっと言ってるし。
こんな関係、良くないって、思ってるんだろうし。
何でするんだって、いまだずっと、思ってそうだし。
……分かってる。
本当は、可愛いとか、側に居たいだけじゃなくて。
普通なら、気持ちを言った方が良い気がする。……普通なら。
だけど、頑なに誰とも付き合わないと言ってる奏斗に、好きだなんて言ったら、そういうつもりなら無理、と、逆に拒否される気がしてならない。和希のことも終わってない、曖昧なまま。オレを受け入れようとなんか絶対にしてくれないと思う。
体だけでも受け入れてくれてるのを、とりあえず今だけはよしとすべきなのか。思うことはお互い色々あって複雑すぎるけど、抱いてる時の奏斗が可愛すぎて離せないし他の奴になんか渡せないし、いまさら完全にやめたら、それはそれでまた変な誤解を生みそうだし。
「……」
オレはめちゃくちゃ嫌だけど、奏斗的には、和希と話して納得のいかないこともクリアにした方が、前に進めそうだよな。
それでよりを戻そうなんてなったらすげーむかつくけど……。
つか、ここ考えてると、いつも同じ結論になる。
水のペットボトルと、お湯で濡らしたタオルを持って、奏斗の居る寝室に戻った。完全に座ってて、ティッシュである程度後始末はしていたみたいだった。下着をはいて、上は羽織ってボタンは閉めずに、ぼー、としていた。
「奏斗、水飲んで」
「ありがと」
ペットボトルを受け取って水を飲み、その蓋を閉めた奏斗の肩に触れる。
「少し拭くね?」
オレが言うと、奏斗はタオルを受け取ろうと手を出すが、「良いよ」とその手を遮った。
「一回脱がせるね」
服を脱がせてから奏斗の体を拭き始める。抵抗はしなかったけど、奏斗はちょっとため息をついた。
「……お前と、するの、さ」
「うん」
「……キツイ」
「キツイ?」
聞き返すと、困った顔でオレを見つめてくる。
「……嘘ついても、分かると思うから、これは言うけど」
「ん」
「四ノ宮とするのは、気持ちいい。……キスも、今までみたいに嫌じゃない」
「……」
それは嬉しいけど。
……なんだかその後に、嬉しくない言葉が続きそうな雰囲気なので、言葉は出さずに、頷いて、見つめ返す。
「でも……これ以上は、やめたい」
「……やめたいって?」
「何でオレが一回限りにしてるか、ちゃんと言ったっけ……」
「執着されたくない……とか」
「ん……。執着されたくないし、したくもない」
言いたいことは分かってる。奏斗の言ってることは、ずっと、一貫してる。
恋愛なんてしたくない。
執着もされたくない、したくない。
触れ合いたい気分の時に、気持ちいいことだけでいい。
ずっと、奏斗は、同じことを言ってる。
近場でしないのは、バレたくないっていうのもあるだろうけど、やっぱり、繰り返して抱き合ったり、それ以外にも接点があって関わったりしていたら、その関係だけで居られなくなるからなんだろうってのも、想像がつく。
現にオレとするのも、多分、割り切れなくて、嫌なのかもしれないけど。
「四ノ宮が心配してくれて、他の奴のところに行くならって言ったやつも……意味は分かんないけど、なんとなく、分かる、とこもある……気もする……」
「……ほんとに分かってる? それ」
「うん。……なんとなくは」
奏斗は苦笑い。
オレは、奏斗の体を拭き終えて、服を羽織らせた。
「……オレ、今は他の人としに行かないと思う」
奏斗は、少し俯き加減で、オレから目をそらしたまま、そう言った。
「なんか今……知らない奴に触られるの、ぞわ、てすんの」
「――――……」
「だからオレ、当分は、ほんとに行かないと思うんだ」
「うん。……それは、良かった」
「良かったって……変なの」
奏斗は、ふ、と苦笑いを浮かべて、オレを見上げる。
「……だったら、四ノ宮に、オレとする理由は、ないだろ?」
「――――……」
……さっきまで、涙目で、顔赤くして、オレにしがみついてたのに。
急に、全然関係ない、みたいな顔をする。
綺麗、だけど。
……ムカつくな。
「……え」
腕を引いて、腕の中に引き込んで、後頭部を手の平で覆う。そのまま、深く唇を重ねて舌を絡める。
舌を外そうとしたり、顔を背けようとしたり、手、動かそうとしたりするけど、全部うまく抑え込んで、容赦ないキスを重ねる。
「……っ……ん……っ……」
「――――……」
「……っふ、は……」
少しだけ息をさせてあげる時に、声が漏れる。
しばらく思うままキスして、少し唇を離す。まっすぐ、涙目の奏斗を見つめた。
「悪いけど……」
「――――……っ」
「……オレには、理由があるから、やめない」
「…………っ」
「奏斗が嫌って言わない限り、ずっと居るって言ってるじゃん」
「――――……」
「……やめさせたいなら、絶対に嫌だって、言いなよ」
オレの言葉を、濡れた瞳で見つめながら聞いていた奏斗は、む、と口をつぐんた。なんて言うんだろうと、心臓が逸る。
絶対に嫌だってほんとに言われたら、どうするか……。
まあでも、絶対、離れないけど。
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