361 / 542
第365話「限定」*大翔
風呂上り。髪の毛、ほわほわしてて、ほんと可愛く見える。
あ。明日。
……これ、皆にも見せんのか。つか。裸……。
一緒にリビングに戻りながら、少し考える。
「あのさぁ」
「んー?」
オレが出したマグカップにコーヒーを注ぎながら、奏斗がオレを見上げてくる。
「明日、風呂って、大浴場?」
「えー? 知らない。だってオレ、去年は入れてないから初だし。何で?」
「……奏斗、部屋でシャワーとかにしたら」
「ん? なんで?」
きょとん、とした顔。
「だって、裸、見ちゃうでしょ、皆」
「――――……」
はい? という感じで、奏斗が首をかしげる。
「誰に? て、ゼミの皆?」
「そう」
「……え、待って。それって、何、見られてオレが嫌ってこと? それとも、オレが、他の男の体、見ちゃうだろってこと?」
「……違う」
「ん? 違うの? 何々、どういうこと?」
「……奏斗の裸を、他の奴が見るよね?」
「うんまあ、大浴場ならそうだよね」
「なんか、他の奴に、奏斗の裸、見せたくないなーと思って」
「――――……」
コーヒーは淹れ途中で中断。カウンターの上に、置いて。
ぽかん、と口を開けたまま、何を言うか考えてるみたい。
「……まって、何か。色々追いつかない」
片手で顔を覆って、そのまま、額に当ててる。
「……だって、見るの、ゼミの人達だよ。ていうか、皆、オレの体なんて見ないし、目に入ったって、なんの問題もないし、オレも別に、ゼミの皆の裸見たって、何とも思わないし、見られてもなんの問題も……?? 何が嫌って言ってんの?」
「奏斗の体、綺麗だから、見せたくないってだけ」
「――――……なン……」
言葉を失ってた奏斗が、やっと少しだけ声を出して、そのまま、かぁっと赤くなった。
「……っなんか意味わかんない、お前、ほんと宇宙人。……意味わかんないけど、恥っず……」
言いながら奏斗が、コーヒーのサーバーをオレに押し付けてくる。
「もう四ノ宮が淹れろよ、もうほんと、馬鹿……意味わかんない……」
言うと、ズンズン歩き出すから、帰っちゃうのかと思いきや、ドアとは逆の方向。どこに行くのかと見守っていたら、ソファに座って、二号をその腕に抱き込んだ。そのまま、めちゃくちゃしかめっ面で、二号の頭に顎ををのせて、むくれてる。
まあ確かに。
……自分でも途中で、気持ち悪がられるかな、言わなきゃよかったかなと思いながら話していたけれど。
……赤くなるとは思わなかった。
あの赤面が、どんな意味なのか、いまいちよく分かんないけど。
――――……まあとにかく、可愛いのは間違いない。
コーヒーをマグカップに注ぎ始めながら、ついクスクス笑ってしまうと。
「笑うな、馬鹿宮」
そんな声が飛んでくるので、苦笑い。
「でも、風呂、オレとは一緒ね?」
「……いやだし。馬鹿宮」
「嫌なら、部屋でシャワーね」
「……もうほんと馬鹿。黙ってコーヒー淹れろよ、もう」
だんだんほんとに嫌そうになって来たので、口をつぐみながら、でも、なんか可笑しくて、笑ってしまう。
何言ってんだろ、オレ。
……でも、他の男に、見せるのも嫌だとか。本気で思うんだよなあ。
「……オレ、よく旅行とか行くから」
「ん?」
「友達と、風呂入るとか、当たり前なんだけど。変なこと言うと、気になるから、やめてくんない?」
「何それ、意識するってこと」
思わずムッとして聞くと。
「だから、オレ、友達、意識しないってば!」
二号をぶにぶに潰しながら、オレを睨む。
……二号は、とんだとばっちりだなと思いながら見ていると。
「四ノ宮だって、別に、女の子全員にそういう風になる訳じゃないだろ」
まあそりゃそうだけど、と言いながら、ふと。
「別にオレ、女の子限定じゃないけど」
「…………」
気になったところを訂正しておくと、奏斗は、ムッとしてまたオレを見てる。
「何。……バイだって言いたいの?」
「バイっていうか…… 奏斗限定、だけど」
「――――……意味分からないし」
二号に顎を沈めて、ずぶずぶ埋まってる奏斗に、ちょっと笑ってしまいながら、淹れ終えたコーヒーを持って、奏斗に近づく。
「はい」
「……ありがと」
「って淹れたの、奏斗だけどね」
クスクス笑いながら、奏斗にマグカップを渡して、奏斗の隣に腰かける。
「……四ノ宮」
「んー?」
「ほんと馬鹿宮なこと言ってるから、気を付けて」
「何それ。……だって、見せたくないなって思っちゃったんだよね」
「……おかしいでしょ。それ」
ふー、とコーヒーを冷ましながら、奏斗が静かに言う。
「おかしくはないと思うけどねー……奏斗はオレの裸、誰かに見られてもいいの?」
「え。……つか、全然いい」
「ひど……」
もーいいです、とコーヒーを口にした瞬間。
ぷは、と奏斗が笑い出した。
「あ、やば、こぼれる……」
「え、あ。はい?」
なんとなく奏斗のマグカップを受け取ったら、目の前で、奏斗が、あは、と笑い続けてる。
「お前、ほんと、おかしい」
「――――……」
「馬鹿だなーもう」
言われてることは、歓迎できないけど。
……なんかすごく楽しそうに笑うので。
見てるこっちまで、嬉しくなる。
ともだちにシェアしよう!