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第365話「限定」*大翔

 風呂上り。髪の毛、ほわほわしてて、ほんと可愛く見える。  あ。明日。  ……これ、皆にも見せんのか。つか。裸……。  一緒にリビングに戻りながら、少し考える。 「あのさぁ」 「んー?」  オレが出したマグカップにコーヒーを注ぎながら、奏斗がオレを見上げてくる。 「明日、風呂って、大浴場?」 「えー? 知らない。だってオレ、去年は入れてないから初だし。何で?」 「……奏斗、部屋でシャワーとかにしたら」 「ん? なんで?」  きょとん、とした顔。 「だって、裸、見ちゃうでしょ、皆」 「――――……」  はい? という感じで、奏斗が首をかしげる。 「誰に? て、ゼミの皆?」 「そう」 「……え、待って。それって、何、見られてオレが嫌ってこと? それとも、オレが、他の男の体、見ちゃうだろってこと?」 「……違う」 「ん? 違うの? 何々、どういうこと?」 「……奏斗の裸を、他の奴が見るよね?」 「うんまあ、大浴場ならそうだよね」 「なんか、他の奴に、奏斗の裸、見せたくないなーと思って」 「――――……」  コーヒーは淹れ途中で中断。カウンターの上に、置いて。  ぽかん、と口を開けたまま、何を言うか考えてるみたい。 「……まって、何か。色々追いつかない」  片手で顔を覆って、そのまま、額に当ててる。 「……だって、見るの、ゼミの人達だよ。ていうか、皆、オレの体なんて見ないし、目に入ったって、なんの問題もないし、オレも別に、ゼミの皆の裸見たって、何とも思わないし、見られてもなんの問題も……?? 何が嫌って言ってんの?」 「奏斗の体、綺麗だから、見せたくないってだけ」 「――――……なン……」  言葉を失ってた奏斗が、やっと少しだけ声を出して、そのまま、かぁっと赤くなった。 「……っなんか意味わかんない、お前、ほんと宇宙人。……意味わかんないけど、恥っず……」  言いながら奏斗が、コーヒーのサーバーをオレに押し付けてくる。 「もう四ノ宮が淹れろよ、もうほんと、馬鹿……意味わかんない……」  言うと、ズンズン歩き出すから、帰っちゃうのかと思いきや、ドアとは逆の方向。どこに行くのかと見守っていたら、ソファに座って、二号をその腕に抱き込んだ。そのまま、めちゃくちゃしかめっ面で、二号の頭に顎ををのせて、むくれてる。  まあ確かに。  ……自分でも途中で、気持ち悪がられるかな、言わなきゃよかったかなと思いながら話していたけれど。  ……赤くなるとは思わなかった。  あの赤面が、どんな意味なのか、いまいちよく分かんないけど。  ――――……まあとにかく、可愛いのは間違いない。  コーヒーをマグカップに注ぎ始めながら、ついクスクス笑ってしまうと。 「笑うな、馬鹿宮」  そんな声が飛んでくるので、苦笑い。   「でも、風呂、オレとは一緒ね?」 「……いやだし。馬鹿宮」 「嫌なら、部屋でシャワーね」 「……もうほんと馬鹿。黙ってコーヒー淹れろよ、もう」  だんだんほんとに嫌そうになって来たので、口をつぐみながら、でも、なんか可笑しくて、笑ってしまう。  何言ってんだろ、オレ。  ……でも、他の男に、見せるのも嫌だとか。本気で思うんだよなあ。 「……オレ、よく旅行とか行くから」 「ん?」 「友達と、風呂入るとか、当たり前なんだけど。変なこと言うと、気になるから、やめてくんない?」 「何それ、意識するってこと」  思わずムッとして聞くと。 「だから、オレ、友達、意識しないってば!」  二号をぶにぶに潰しながら、オレを睨む。  ……二号は、とんだとばっちりだなと思いながら見ていると。 「四ノ宮だって、別に、女の子全員にそういう風になる訳じゃないだろ」  まあそりゃそうだけど、と言いながら、ふと。 「別にオレ、女の子限定じゃないけど」 「…………」  気になったところを訂正しておくと、奏斗は、ムッとしてまたオレを見てる。 「何。……バイだって言いたいの?」 「バイっていうか…… 奏斗限定、だけど」 「――――……意味分からないし」  二号に顎を沈めて、ずぶずぶ埋まってる奏斗に、ちょっと笑ってしまいながら、淹れ終えたコーヒーを持って、奏斗に近づく。 「はい」 「……ありがと」 「って淹れたの、奏斗だけどね」  クスクス笑いながら、奏斗にマグカップを渡して、奏斗の隣に腰かける。 「……四ノ宮」 「んー?」 「ほんと馬鹿宮なこと言ってるから、気を付けて」 「何それ。……だって、見せたくないなって思っちゃったんだよね」 「……おかしいでしょ。それ」  ふー、とコーヒーを冷ましながら、奏斗が静かに言う。 「おかしくはないと思うけどねー……奏斗はオレの裸、誰かに見られてもいいの?」 「え。……つか、全然いい」 「ひど……」  もーいいです、とコーヒーを口にした瞬間。  ぷは、と奏斗が笑い出した。 「あ、やば、こぼれる……」 「え、あ。はい?」  なんとなく奏斗のマグカップを受け取ったら、目の前で、奏斗が、あは、と笑い続けてる。 「お前、ほんと、おかしい」 「――――……」 「馬鹿だなーもう」  言われてることは、歓迎できないけど。  ……なんかすごく楽しそうに笑うので。  見てるこっちまで、嬉しくなる。    

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