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第366話「キモイって」*大翔

「コーヒーありがと」  やっと笑いが収まった奏斗は、オレからマグカップを受け取った。 「奏斗、笑いすぎなんだけど」  クスクス笑いながらそう言うと、「だって」と奏斗がオレを見つめる。 「おかしいんだもん」 「……オレは本気で言ってるんですけどね?」 「どこが本気なの?」 「奏斗の体見せたくないって」 「……誰もオレにその気になんないって。今までだって全然平気だったし」 「実際平気かどうか、分かんないでしょ」 「……あのさー、いくら多様化言われてるからってさぁ……少なくともオレの周りは、女の子大好きで、おしりが胸がーみたいな奴、多すぎるんだけど……皆合コン大好きだしさ」 「…………」  何か奏斗の口から、そのセリフが出ると、なんか新鮮。かわい。  とか思いながら黙ってると、奏斗がちょっと嫌そうな顔。……ち。鋭い。 「お前今何考えてる?」 「え?」  あー、と苦笑い。 「んー……奏斗は、女の子のそういうの、全然興味ないんだよね?」 「……無い。そういう話じゃなくない? 何?」 「んー…………奏斗がおしりとか言ってると、なんか新鮮で」  クスクス笑ってしまうと、ものすごく嫌そうな顔で睨まれる。 「いや、なんか。……可愛いなと思ってたけど。そんな怒んないでよ」 「……怒ってないけど、意味わかんない」 「……オレは、奏斗のが可愛いけど」 「オレのって??」」  きょとん、として、オレを見る。  全然分かんないと、素になるとこ。可愛い。 「奏斗のおしりとかさ」  口にした瞬間、うわー、とすごく嫌そう。 「……マジでキモイ」 「キモイって何。人にキモイって言っちゃだめでしょ」 「これに限っては無理。だって、キモイ。キモ宮って呼ぶ」 「えー、もうなんかそれはかなり嫌だけど」 「うるさい、キモ宮。黙ってて。もうオレコーヒーに集中するから」 「コーヒーに集中しないでよ」  クスクス笑って、奏斗の頭、ぽふぽふ撫でると。 「さわんな」  と嫌そうだけど、コーヒー零れそうだし、そんなに抵抗はないのをいいことに、よしよし、と撫でてると。 「……キモ宮さぁ、オレのこと、なんだと思ってんの」 「ん? ……ていうかキモ宮はやめてほしいんだけど」  苦笑いで言うけど、スルーされて、そのまま奏斗が続ける。 「オレ、子供じゃないし。先輩だし」  オレの手を避けてから、むくれながらそう言ってる。 「奏斗が子供じゃないのなんて分かってるし、先輩なのも分かってるけど」 「けど何」 「可愛かったら、撫でるけどね」  む、と口を噤んでる奏斗に、そう言ったら。 「キモ宮、マジでキモイ……」  べー、と舌を出して、オレから視線を逸らす。  マグカップに口をつけて、こく、とコーヒーを飲む。 「キモくはないと思うんだけど。ていうか、オレ、キモイって言われたの人生初かも」 「……まあオレも言われたことないけど。ていうか、何で喜ぶの」 「奏斗、面白いなーと思って」  なんかオレに悪口言ってる時、ちょっと生き生きしてて、面白い。 「あ、でもほんとにオレと入るか、部屋で一人でシャワーね?」 「……なあ、それ本気で言ってるの?」 「本気。マジ。真剣」 「……それ約束しないからね。オレ、その場の流れで適当に入るからね」 「じゃあオレが合わせるか……」  考えながら言うと、奏斗は、はーとため息。  もう何も答えないことにしたみたいで、こくこくコーヒーを飲み干そうとしてるような。 「あのさぁ、早く飲んで帰ろうとしてたりする?」 「……良く分かったね」  その返答に苦笑。 「今日はなんもしないから。一緒寝よ」 「……遠慮したいんだけど」 「明日、朝早いし、起きてご飯一緒に食べて、出ようね」 「一号がとてもキモイので、オレは、二号と寝て良いなら」 「二号、寝室持ち込み禁止だから」 「え、そうなんだっけ?? 何で?」 「なんでも」  なんでだよなあ? ひどいよな? と二号としゃべってる奏斗がめちゃくちゃ可愛いのだが。これ以上言うと、マジで帰られそうなので、言わない。 「あ。そうだ。あのさ、四ノ宮」 「ん?」  二号から顔をあげて、少し真面目な顔で、オレを振り返った。 「オレ、合宿の間はさ、お前と離れるから」 「何その宣言。……一応聞くけど。何で」 「一緒に行くし。向こうでまで一緒にいたら、ほんと、おかしいかなと思うから」 「……誰も気にしないって」 「いやだ」  さっきまでのちょっとふざけた感じは全くなくて。  マジで言ってるんだろうな、と。    ため息。 「分かったけど……奏斗がオレと話したくなったらいつでも来てね」 「……なりません」 「なってよ。ずーっと待ってるね」 「ならない。帰り一緒なんだからいーじゃん」 「オレは別にずーっと一緒でもいいし」 「…………もしそれしたら、オレ、帰り、別の人と帰るからな」  しばし見つめ合う。  はー。ここらへんは、しょうがないか。無理強いしてもな……。  ……オレが折れるしかなさそう。 「分かった、けど。……待ってるね?」 「待つなよ。なー、二号? 一緒に寝ようなー?」 「あ、それはだめ」 「だから何で?」  もー、と奏斗が膨らんでいる。  可愛いけど、だめ。

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