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第367話「出発」*大翔

 ふ、と目が覚める。  昨夜、二号の持ち込みは断固拒否して、半ば無理無理自分の腕の中に引き寄せた奏斗が、まだ腕の中で眠っていた。  ……はは。すげー、かわい……。  寝相いいよな。あんまり夜、動かない気がする。  そっと動いて、時間を見ると、まだ余裕がある。  もーしばらくこのまま見てよう。思った瞬間、だった。  いきなり奏斗のでっかい瞳が開いて、ばっちり視線が合った。 「――――……」  でもどうやら、寝ぼけてるみたい。  じー、とオレを見てはいるけど……。 「おはよ……」  長い沈黙の後、奏斗がやっと言った。 「あぁ、おはよ。大丈夫?」 「……うん…………ん? ……大丈夫ってなにが……?」 「まだ早いからもう少し寝ててもいいよ」 「……いい。二度寝した方が辛そう」 「まあ車で寝ててもいいけど」 「……んー……寝ない」  しゃべりながら、ゴロゴロと転がっていって仰向けになると、両手で目を覆っている。   「奏斗」 「……んー?」 「今日は一緒に寝れないね」  目をこすってた手をぴた、と止めて、ゆっくりその手を外してオレを見る。 「普通、一緒に寝ないんだよ……」 「まあ普通はね。寂しかったら一緒に寝てもいいよ。……あれ、部屋ってまだ決まってないよね?」 「寝ないっつの……」  んーと、伸びをしながら奏斗が起き上がったので、オレもゆっくり体を起こした。 「あ、昨日帰り路で聞いたんだけど、大部屋で雑魚寝だって。女子は別部屋で雑魚寝って」 「椿先生は?」 「先生がいると楽しめないだろうからって、個室だって言ってた」  ふふ、と奏斗が笑う。 「オレらとだとうるさいからでしょ~って、皆が言ってて、椿先生は、そんなことないですよーて笑ってた」 「ふうん。雑魚寝か。……じゃあ奏斗、隣……」 「絶対、嫌」 「……ち」  即断られて、思わず小さく舌打ちをすると。 「ちって何だよ、寝る訳ないだろもう。……あ、キモ宮って呼んでたの思い出した……」 「忘れていいよ。さ。ごはんつくろっと」 「あ、手伝う」  言いながら奏斗もベッドを下りようとしてる。  別にいいんだけど……。思いながらも。 「じゃあ、一緒にやろ」  言って、奏斗と並んで歩く。  洗面所で、奏斗に先に顔を洗わせてる間、後ろで待っていると。  顔を上げたと同時に、オレを振り返った。 「なあ、なんで二号、寝室禁止なんだっけ……?」 「……何で今それ?」  笑ってしまうと、思いだしたから、と笑う。 「奏斗、取られるから」 「……きも」 「キモ宮、言わない」  遮って、笑うと、奏斗は肩を竦めて、「お湯沸かしとく」と歩いて行った。  なんか……ずっとこんな風に、一緒に居られたらいいんだけど。  でも、必ずどこかで、オレとの間に一本線を引こうとするんだよな……。  顔を洗いながら、考える。  ……まあ、仕方ないか。  奏斗が和希と別れて、一人で居た長い間。  ずっと、もう一人で居ようって決めて生きてきたんだもんなー……。  今オレと居てくれるだけで、よしとしよ。  奏斗に付き合って後ろ向きでいる訳にはいかねーもんな。  よし。  ――――……ちょっと力を込めて、顔を上げた。 ◇ ◇ ◇ ◇  食事の後、奏斗が一旦部屋に戻った。   十分位でチャイムが鳴った。靴を履いて、ドアを開けると、荷物を持った奏斗。 「準備できた?」 「うん、できた」 「じゃ行こ」  一泊二日のゼミ合宿は、現地に九時に集合。九時半から合宿が始まって、午前~夕方までと、夕食後の飲み会は、話し合いとOGさんからの情報収集とか。  翌日も、朝から夕方までは色々予定が詰まってる。  一時間半あれば余裕でつきそうだけど、一応二時間前に出発。地下駐車場のオレの車に乗り込んで、シートベルトを締める。 「じゃあ、お願いします」 「ん。安全運転で行くから」 「うん」 「寝ててもいいからね」 「いいよ。起きてる」  ふ、と笑う奏斗にちょっと笑って見せてから、出発。 「あ、奏斗、好きな曲、何? 音楽かける?」 「好きな曲ー? ……そういえば、そういう話、あんましたことないね」 「そうかも」 「あ、じゃあオレのスマホで聞いてみる?」 「ん、いーよ。じゃあかけて」 「あとで四ノ宮の聞いてるのもかけてよ。人が好きな曲聞くの、結構好き」 「そう?」 「うん。四ノ宮ってどんなの聞くんだろ。全然分かんないなぁ……」 「洋楽」 「げげ」 「何その反応。洋楽に失礼でしょ」  クックッと笑ってしまうと。 「違くて。……なんか、かっこつけた感じというか……カッコいい感じというか。なんか嫌味感が……」 「何だそれ。……カッコいい? オレ」 「…………そんな話はしてないけど」 「嘘。洋楽も聞くけど、普通に流行ってる曲も聞くよ」 「そうなんだ」  ふーん、あとで聞くの楽しみーとか言って、自分のスマホを弄ってる。 「あ、そういえばさ。オレって、カッコいい? 奏斗にとって」 「……はい?」 「どう思いますか?」  ちょっと敬語で改まって聞いてみると。 「……世論的に、カッコいいんじゃないでしょうか。そんな気がしますが?」 「う、わー、何それ。今世論なんか聞いてねーし。あと変な敬語やめてよ」  言うと、奏斗は可笑しそうにクスクス笑ってる。

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