364 / 542

第368話「約束」*大翔

 割と空いてて、順調。  次のパーキングエリアは、大きくて、店も多いので休憩を入れることにした。 「ちょっと寄って、何か飲み物でも買お。トイレも」 「うん」  道は空いてて良かったけれど、結構このパーキングは混んでる。空いてる端の方に停めて、奏斗と車を降りた。トイレに向かって歩き出しながら、隣の奏斗を見つめる。 「奏斗が好きな曲、子守歌みたいなのが多いね」 「はー?? いい歌、でしょ?」  ぶー、と膨らんでオレを見上げてくるその顔。わざと言った言葉にすぐ反応するの、素直。 「うん。いい歌。しっとりしてて。うとうとしそう」 「ほめてんの、けなしてんの?」 「ほめてる。オレも好きだよ」 「ほめ方、変。じゃあ、次、四ノ宮の曲かけよ」 「ん、いーよ」  クスクス笑いながら頷いて、トイレを済ませる。手を洗って、一緒にトイレから出たところで、前方に、見知った顔が見えてしまった。内心、うわ、と思うが。当然、顔には出さない。 「あー! 大翔とユキ先輩!」 「あれーユキと四ノ宮ー!」  同学年たちと、相川先輩達が近づいてくる。奏斗は、わー皆ー!とか言って、素直に喜んでるけど。  オレはなんとなく、せっかく今だけは二人の空間なのに、という気持ちがあるから、少し気分は落ちる。 「偶然会えるのすごいね」  里穂が笑顔で言って、オレを見上げてくるので、「まあ、ここ、一番大きいしね」と、一応笑顔で頷いた。  ……向こうで会うんだし、別にここで会わなくてよかったけど。という心の声とは逆に、なんとなく、一緒に飲み物を買いに店内に進むことになってしまった。  奏斗は先輩達に取られたし。オレの隣には里穂が居るし。  ……女子と楽しそうにしてるとか、奏斗に思われたくないんだよな。そんなことを思いながら、ふーと息が漏れる。やっと飲み物を買い終えて、店の外で立ち止まった時、相川先輩が、そうだ、と皆を見回した。 「車、メンバーチェンジする?」 「え?」 「一年同士がよければそれでもいいと思ってさ。オレらと一緒だとちょっとは気ぃ遣うだろ?」  なんて言ってるけど、相川先輩にそんな気を遣う奴はいないと思うが。いい意味で、ものすごく気安い。 「そんなことないですよー楽しいですよ?」  一年の三人、口をそろえて言って、相川先輩は、それに笑って頷きながらも。 「どーする? ユキ、こっちの車来る?」  と、奏斗に聞いた。  は? なんつー提案してくんの。何の意図も無さそうだし、思い付きで楽しそうに言ってくるのが厄介。……断りにくいし。  なんとなくいつもどおりの王子の仮面がはがれて、思い切りムッとしてしまいそうになった時。  奏斗がちらっとオレを見て、それから相川先輩に視線を戻した。 「んー……でも、四ノ宮の車でいいよ。その予定だったし。荷物とか移動すんのもめんどいし」  奏斗が普通にそんな風に言って、ふ、と笑った。相川先輩は、「まあそっか、じゃあ向こうでな~」なんて即言って、笑ってる。オレの中に波風を立てるだけ立てて、けろっとしているのが、なんか、先輩らしい……。 「じゃね、またあとで」  里穂がそう言って、オレを見上げるので、ん、と頷いて別れた。  なんとなく向こうが歩いていくのを見送りながら、無言。 「四ノ宮、いこ」  奏斗がそう言って歩き出す。すぐに隣に並んで、車に向かって歩き始めながら、数歩黙っていた。 「……良かったの、向こう。行かなくて」  行って欲しいなんてかけらも思わないまま、そう聞いてみると、奏斗は黙ったままふっとオレを見上げた。 「んー……小太郎は、一年を一緒にしてあげようと思って、言ったんだと思うんだけどね」 「ん」 「まだ四ノ宮の好きな曲聞いてないし。さっき聞くって約束したろ」 「――――……ん。そだね」 「……あと、一緒に行くって約束したし」 「そだね」  約束、か。微笑んでしまう。  なんか。嬉しい。  ……なんかっつーか。  すごく嬉しい、かも。  一緒に車に乗り込む前に、辺りを確認。端に停めたから、あまり車もない。  コーヒーをドリンクホルダーに入れてすぐ、奏斗の腕を掴んで、引き寄せた。 「え……んっ」  逃げられないように、後頭部を押さえて、キス。 「……っ」  すぐに離したら、これでもかと開いたでっかい瞳が目の前にあって、笑ってしまった。 「……ごめんね」  何か言われるより先に、苦笑いで謝ると。  ぐい、と押しのけられた。 「……見られたらどーすんだよ」  何だか、すごく睨まれる。  ……ちょっと赤い。すぐ赤くなる。 「大丈夫、この車、中見えにくくなってるし。人居なかったし」  と言うと、「次したら絶交」と言われて、あ、また絶交がきたなぁ、なんて苦笑い。 「つかさ。だってなんか、奏斗がオレと居てくれるの、嬉しいなーと思って」  言いながらエンジンをかけて、奏斗を見ると、奏斗は、オレを見つめてから、ふい、と視線を逆側に向けた。そのままシートベルトをしめてから。 「もー出発! あ、四ノ宮のスマホで音楽、かけて」 「あ、はいはい」  スマホを取りだして、たまに使う音楽アプリを開き、奏斗に渡す。 「はい。好きなのかけて」 「あ、うん」  受け取って、並んでるプレイリストに、あ、これ好き、とか言ってる奏斗を見ると、何だか気持ちがすごく緩む。 「車、だすよ」 「ん。お願いします」 「ん」  くす、と笑ってしまいながら、オレは車を発進させた。

ともだちにシェアしよう!