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第369話「正直なとこ」*大翔
無事に合宿所に到着。駐車場に停めてから、荷物を持って宿の中に入った。普通の旅館というよりは、学生が合宿をするためにある施設みたいだった。案内図を見ると、一階二階にはレストランや大浴場や宿泊部屋があって、三階に大小さまざまな教室があるらしい。
雑魚寝をする部屋に荷物を置いてから、筆記用具だけ持って、三階の大き目な教室に移動した。
大分早く着いたので、さっきパーキングで会ったメンバーと、オレと奏斗、椿先生しか来ていない。なんとなく教室に飾られてるものなどをそれぞれ見ながら、どうやって来たかとかを話していたら、先生が、ふっと奏斗に視線を向けた。
「ああ、ユキくんは四ノ宮くんの車で来たんですか?」
「あ、はい。家が近いので、そうなって……」
特に詳しく聞かれても居ないのに、奏斗はそんな弁明をしてる。別に、ハイ、だけでいいと思うけど。それに、近いっつーか、隣だけどね、とか、心の中でツッコミを入れる。
「あぁ、そうなんですね」
ふ、と笑んだ先生の隣で、「四ノ宮の運転ってどんな感じ?」と相川先輩が奏斗に聞いてる。
「どんな感じ?って……んー。スムーズかな。安心して乗ってられる感じ」
へえ。そうなんだ、と先輩達が笑ってる。
その評価は嬉しいかも。と、そんな些細な言葉に、内心、超嬉しくなってるオレ。
「おはようございまーす」
続々と到着して、人が増えていく。
あと二十分で開始か。……トイレ行ってこよ。
立ち上がりかけたその時、奏斗が「あ、皆が来る前にトイレ行ってきまーす」と立ち上がって、ちょうど立ち上がったオレと、ばっちり目があった。
「……トイレ?」
「あ、はい。一緒に行きましょうか」
多分タイミング悪かったと、すげー思ってるんだろうなと分かる奏斗の表情に、クスクス笑いながら言うと、相川先輩が「息ぴったりだな」とか、何も考えてないだろうセリフを、ぽん、と投げてくる。
「……行ってきます」
はー、とため息をついてる奏斗が、教室を出てから、じっとオレを見あげてきた。
「……ていうか、今のは、オレ、奏斗に合わせた訳じゃないかんね?」
「分かってるよ。たまたま同じタイミングだったし。どっちのトイレ行く?」
教室のある階、左右両方とも奥にトイレがあるみたい。ちょうど真ん中あたりの部屋なので奏斗がそう聞いてきた。
「あっちのが少し近いかな」
「ん、じゃあそっち」
部屋を出て、右手の奥に向かって歩く。
「離れるって言ったの、ほんとにすんの?」
「うん。する」
その言葉に、仕方ないなと思っていると。
「でも……なんか、ごめんな」
「……何で謝んの?」
「……オレの事情で言ってるだけだから。いつも色々世話かけてる、気がするのに」
今はこの建物、オレ達以外にはあまり人が居ないみたいで、すごく静かな空間。奏斗は、オレを見上げながら、静かにそう言った。
――――……謝る位なら、そんなこといわなきゃいいのに。
仲良くしてたら変に思われるとか、いつか困るとか。そんなこと、考えなくていいのに。
トイレについて、用を済ませる。
先に手を洗ったオレは、一度ドアを開けて、誰も来てないことを確認。
もう一度ドアを閉めて、手を拭き終えた奏斗の腕を掴んで引き寄せた。
「え」
「――――……」
ぎゅ、と抱き締めて、ポンポン、と頭をなでる。
「……謝んなくて平気」
奏斗は、動かない。
「結局オレのために言ってんのも分かってるから」
「――――……」
「でも、正直なとこ」
少し離して、真正面から向かい合う。
むぅ、と膨らんでるけど。
「奏斗とオレが、付き合ってんじゃねえのって噂されるくらいでも、オレは全然いいけどね」
見つめたまま、至近距離でそう言うと、奏斗は「絶対無し」と、きっぱり。ぐい、と胸を押されて離された。
「ほんっとにそういう意味わかんないことばっか言ってきてさ」
「――――……」
「ほんとにそうなったら……絶対困るよ。てことで。約束、守ってね」
「分かったけど、風呂は、オレとね?」
「……そこは約束してないからね。流れでどーにかするから」
「――――……」
むー。
……ムカつくな。もう。
ぐい、ともう一度引き寄せて、奏斗の頬にキスをした。
「な……」
自分の、キスされた頬に触れて、オレを睨む。
「もーそういうのも、全部禁止!」
「……そう言われそうだから、口じゃないとこしたのになー。……口にすればよかった」
「もーマジで意味わかんない」
ぷんぷん怒りながら、奏斗がドアを開ける。
ちょうどその時、少し離れたところにゼミの仲間が来てて、気付いた奏斗がムッとしてオレを睨むので、オレは、肩を竦めて見せた。
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