365 / 542

第369話「正直なとこ」*大翔

   無事に合宿所に到着。駐車場に停めてから、荷物を持って宿の中に入った。普通の旅館というよりは、学生が合宿をするためにある施設みたいだった。案内図を見ると、一階二階にはレストランや大浴場や宿泊部屋があって、三階に大小さまざまな教室があるらしい。  雑魚寝をする部屋に荷物を置いてから、筆記用具だけ持って、三階の大き目な教室に移動した。  大分早く着いたので、さっきパーキングで会ったメンバーと、オレと奏斗、椿先生しか来ていない。なんとなく教室に飾られてるものなどをそれぞれ見ながら、どうやって来たかとかを話していたら、先生が、ふっと奏斗に視線を向けた。 「ああ、ユキくんは四ノ宮くんの車で来たんですか?」 「あ、はい。家が近いので、そうなって……」  特に詳しく聞かれても居ないのに、奏斗はそんな弁明をしてる。別に、ハイ、だけでいいと思うけど。それに、近いっつーか、隣だけどね、とか、心の中でツッコミを入れる。 「あぁ、そうなんですね」  ふ、と笑んだ先生の隣で、「四ノ宮の運転ってどんな感じ?」と相川先輩が奏斗に聞いてる。 「どんな感じ?って……んー。スムーズかな。安心して乗ってられる感じ」  へえ。そうなんだ、と先輩達が笑ってる。  その評価は嬉しいかも。と、そんな些細な言葉に、内心、超嬉しくなってるオレ。 「おはようございまーす」  続々と到着して、人が増えていく。  あと二十分で開始か。……トイレ行ってこよ。  立ち上がりかけたその時、奏斗が「あ、皆が来る前にトイレ行ってきまーす」と立ち上がって、ちょうど立ち上がったオレと、ばっちり目があった。 「……トイレ?」 「あ、はい。一緒に行きましょうか」  多分タイミング悪かったと、すげー思ってるんだろうなと分かる奏斗の表情に、クスクス笑いながら言うと、相川先輩が「息ぴったりだな」とか、何も考えてないだろうセリフを、ぽん、と投げてくる。 「……行ってきます」  はー、とため息をついてる奏斗が、教室を出てから、じっとオレを見あげてきた。 「……ていうか、今のは、オレ、奏斗に合わせた訳じゃないかんね?」 「分かってるよ。たまたま同じタイミングだったし。どっちのトイレ行く?」  教室のある階、左右両方とも奥にトイレがあるみたい。ちょうど真ん中あたりの部屋なので奏斗がそう聞いてきた。 「あっちのが少し近いかな」 「ん、じゃあそっち」    部屋を出て、右手の奥に向かって歩く。 「離れるって言ったの、ほんとにすんの?」 「うん。する」  その言葉に、仕方ないなと思っていると。 「でも……なんか、ごめんな」 「……何で謝んの?」 「……オレの事情で言ってるだけだから。いつも色々世話かけてる、気がするのに」  今はこの建物、オレ達以外にはあまり人が居ないみたいで、すごく静かな空間。奏斗は、オレを見上げながら、静かにそう言った。  ――――……謝る位なら、そんなこといわなきゃいいのに。  仲良くしてたら変に思われるとか、いつか困るとか。そんなこと、考えなくていいのに。  トイレについて、用を済ませる。  先に手を洗ったオレは、一度ドアを開けて、誰も来てないことを確認。  もう一度ドアを閉めて、手を拭き終えた奏斗の腕を掴んで引き寄せた。 「え」 「――――……」  ぎゅ、と抱き締めて、ポンポン、と頭をなでる。 「……謝んなくて平気」  奏斗は、動かない。 「結局オレのために言ってんのも分かってるから」 「――――……」 「でも、正直なとこ」  少し離して、真正面から向かい合う。  むぅ、と膨らんでるけど。 「奏斗とオレが、付き合ってんじゃねえのって噂されるくらいでも、オレは全然いいけどね」  見つめたまま、至近距離でそう言うと、奏斗は「絶対無し」と、きっぱり。ぐい、と胸を押されて離された。 「ほんっとにそういう意味わかんないことばっか言ってきてさ」 「――――……」 「ほんとにそうなったら……絶対困るよ。てことで。約束、守ってね」 「分かったけど、風呂は、オレとね?」 「……そこは約束してないからね。流れでどーにかするから」 「――――……」  むー。  ……ムカつくな。もう。  ぐい、ともう一度引き寄せて、奏斗の頬にキスをした。 「な……」  自分の、キスされた頬に触れて、オレを睨む。 「もーそういうのも、全部禁止!」 「……そう言われそうだから、口じゃないとこしたのになー。……口にすればよかった」 「もーマジで意味わかんない」    ぷんぷん怒りながら、奏斗がドアを開ける。  ちょうどその時、少し離れたところにゼミの仲間が来てて、気付いた奏斗がムッとしてオレを睨むので、オレは、肩を竦めて見せた。  

ともだちにシェアしよう!