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第370話「ひとりで」*大翔

 教室に戻ってしばらく経って、人が揃ってきた。適当に座ってた皆は、先生に言われて、一度席を立った。  長机を繋げて内側を向いて座る感じで四角く配置された机。先生を前にして、右側に一年、一年の隣に先輩達、左に二年。そんな感じで座っていた。 「まだ早いけど、もう集まったかな? あとは卒業生たちだけかな」  先生がそう言った瞬間、ちょうどドアが開いた。 「おはようございます」 「あぁ。ちょうど来たね。おはよう」 「先生お久しぶりです」 「よろしくおねがいします」  入ってきたのは、三人。男二人と女一人。  学生時代に起業して、今ここに呼ばれるってことは、成功してる人達だろうな。……自分に自信もってそうな人達。それが第一印象だった。  立花、桜木、石田と名乗って、先生の隣に腰かけた。 「じゃあ改めて。おはようございます」  先生の声に、皆、おはようございます、と答えた。反対側、斜め前に奏斗が座ってる。まっすぐ姿勢を伸ばして、先生を見つめていた。何だか少し、楽しそうに見える。 「今回の合宿のテーマは、起業について。これは卒業後の起業もだけど、学生時代の起業も含めてね。学生時代だと色々優遇される点もあるから、そこらへんも、色々学んでもらおうと思います。このゼミに居る人は、少なからず起業に興味がある人も多いと思うんですが……何人かあててみようかな」  先生がそう言って、皆の顔を見た。 「漠然と興味がとかじゃなくて、起業したいっていう理由を、はっきり言える人居るかな?」  そう言われると、皆、少しためらうみたいで、手があがらない。  そんな中で、先生がふと視線を止めたのは。 「ユキくんは? どうして起業?」  一番に指されて、奏斗が一瞬固まったけれど、すぐ、立ち上がった。   「オレは……一人で生きていく力が欲しいから……です」 「一人で、ですか?」 「……はい」  言ってから、椿先生にオウム返しで質問されて、少し戸惑った顔。   けれど、もう今更取り消せないと思ったのか、小さく頷いた。  奏斗らしくない発言だと思うのか、何だか少しザワザワする。  ……オレには、痛いくらいに、その意味が分かるから、複雑すぎるけど。 「……制約が多い会社員とかじゃなくて、自分の意志で決めて生きていけたらいいなと思って……」  続けて言った奏斗に、先生は、なるほど、と微笑んだ。 「分かりました。じゃあ次は……」  椿先生は特に感想を言うわけではなく、また別の人にも聞いていく。  すとん、と座って、少し考え深げに、肘をついて口元に触れる。  とっさに当てられて、一人で、のところを言っちゃったんだろうな、となんとなく思う。  自分の意志で決めて。  一人で生きていきたい、か。  皆は、普通に納得したんだろうけど。  普通のことじゃない、色んな意味が込められていそうで。  ……胸が。痛い。 「四ノ宮くんはどう?」 「あ、はい。……父親が会社を起業してるので、興味はとてもあります」  そこら辺は、ゼミの皆も知ってるので、普通に言った。 「継ぐのを前提とした経営ではなくて?」 「もちろんそちらもありますけど……まだ、どうするかも、決めてはいないので……」 「なるほど。分かりました」  そう言われて、オレは席に座りなおした。 「じゃあ、大体起業に興味がある理由は出揃ったかな? 他にある人居たら挙手して」  先生の言葉に、皆、首を振った。  全体的に思ったことを、先生が言って、他にも色んな起業の動機をいくつか説明される。  それから、先生の隣に座っていた卒業生たちにバトンタッチ。  三人とも、在学中に起業した、先輩たち。  在学中に起業する仕方と、メリットを、まずざっと説明される。色々質問をして、回答してもらう内に、午前は終了した。

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