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第371話「欲求不満?」*大翔

 ゼミ合宿は、旅行とは違う。  完全に、ゼミの「勉強合宿」なので、遊びの時間とかは入らない。昼食も、食堂で普通に食べて終了。  ざっと五十席位ある食堂で、適当に長机に並んで、食事をとる。オレ達の他にも何組か合宿をしてるらしい。  奏斗は、相川先輩とかと並んで、卒業生たちと色々話していた。  なんだかすごく楽しそう。  奏斗の、人懐こい感じは、色々知る前に見ていたまま。今になっても変わらない。でもさっきの言葉がひっかかってる。  一人で生きてく。か。  どうしても気になってしまうのは、オレだけだよなと思いながら、食べ進めていると。 「ね、大翔くん」 「ん?」  隣にいた里穂に、話しかけられて、ふと、顔を見返す。 「大翔くんはさ、来年もこのゼミとる?」 「んー……多分、取ると思う」 「そっか。あたしも多分」  ふふ、と笑う里穂に、そっか、と頷く。  多分、奏斗はそのまま上のゼミに行きたいんだろうし。となると、三年四年の手伝い要員として、こっちの椿先生のゼミに来るだろうし。  オレも元々取りたくてここに入ったけど、今はますます、違うゼミに行く理由はないな。まあ起業だけなら、他のゼミもあるけど……ゼミは、他の、ただ受けるだけの授業よりは色々絡むから、奏斗が来るなら、ここがいい。  そんな事を考えながら、周りの一年と話していると、椿先生が「皆、食べながらでいいから聞いてね」と声を上げた。 「昼食が終わったら少し休憩。十三時十分から、今度は二階の視聴覚室の方に集まるように。良いですか?」  その言葉に皆、はい、とそれぞれ返事をした。  三十分くらいはあるのか。時計を見てそう思ったところで、里穂がオレに視線を向けた。 「歩いて五分のところに神社があるんだって。行かない?」 「五分か……。|佑《ゆう》と|美優《みゆ》も行く?」  目の前に座っていた同じ一年の二人に聞くと、んー、と考えて、それから、やめとこうかなーと笑う。 「二人が行かないなら」  やめとく? という意味で里穂を見ようとしたら、佑が「いいじゃん、行ってきなよ」と笑った。「そうだよ」と美優も言う。 「行こうよ、大翔くん。神社のお散歩」  里穂にも言われて、頑なに断るのも変かなと思って、「まあいいけど」と、頷いた。  里穂と二人っていうのはなぁ……と思って、奏斗も行くかな、あそこらへんも誘って……と思うけれど。食べ終わっても全然動こうとせず、何か盛り上がってるっぽいのが見てとれる。  ……仕方ないか。合宿の間、学年別になることも多いかなとは覚悟してたし。  それに、奏斗はきっと、オレが誰と二人だって、そんなこと気にしないだろうし……。  ……これ、少し自虐入ってるかも。 「……じゃあちょっと行ってみようか」  午前からずっと室内に閉じこもってるし、少し気分転換してこよう。  そう思いながら、里穂に返事をすると、「うん!」と笑顔。 「一緒に行ったらいいのに。息抜き」  食器のトレイを持って席を立ち、残る二人に聞くけれど、二人は、いってらっしゃーいと笑った。 ◇ ◇ ◇ ◇  宿を出て里穂と歩き始めてすぐに、神社に上る結構長い階段が出てきた。 「おー、この階段の上?」 「そうみたいだねーひゃー、こんなに上にあるとは予想してなかった」  里穂が見上げて、少し悲鳴っぽい声を上げている。 「徒歩五分に、この階段も入ってるのかな。どーする? 行く? やめて帰る?」 「んー……せっかくだから、行く!」 「じゃあ頑張ろうか」  クスクス笑いながら、上り始める。  里穂と並んで歩き始めて、すぐ、気付いたことがあった。  オレ、最近、奏斗としかいないんだな、と。  何人かで歩く時はもちろんあるけど、二人きりというシチュエーションは、もう、しばらく奏斗とだけだったかも。  里穂と並んで、里穂の方を見ると、奏斗の頭の位置よりは大分低い。  無意識に、小さいななんて思って、それが奏斗と比べてるせいだと気づいて、何だか可笑しい。  ――――……奏斗が男とホテルに入ってった日。  あの日が、女とそういう意味で会った、最後だったな……。  あれから、なんだか、色々あった。  最初に持ってた感情と、もう今では全然違う。    ……無理無理近づいて、無理無理奏斗と居るけど。  奏斗は、オレとばかり居て、どうなんだろ。  ……オレは、奏斗が可愛くて、しょうがないけど。   「大翔くん、今日雪谷先輩と車、楽しかった?」 「ん。まあ。楽しかったよ。好きな音楽かけあったりしてた」 「なんかさ、少し前は全然話してなかった気がするんだけど、最近、すごく仲いいよね?」  階段で少し息が上がりながら、里穂が言う。 「そう見える?」 「うん、見える」 「そっか」  まあ、それは単純に嬉しいけど。  笑って頷きながら、ふと気付く。  里穂とこうやって二人で神社、とか。奏斗、気にするかな。  ……しねーか。しねーな。うん。  彼女作れとか言ってるくらいだしな。はー。  彼女なんていらないって言ってんじゃん。じーさんになっても付き合うって言ってんのにさ。まあ、もしかしたらそこは冗談かと思われてるのかもしれないけど。……今度本気だって言っておこ。  大体さあ、仲良くしてると変に思われたらいやだとかさ、別に奏斗、相川先輩とかと超仲いいじゃんか。あれは良い訳? 変に思われなるとか心配しない訳?   何でオレだけ、そんな気にするんだ。  …………って、あれか。  やっぱり、そういうコトしてるから。警戒しちまってんのかな。  まあ先輩同士で仲いい分には友達だからでいけるけど。オレ、後輩だしな……。一緒に居ると、普通より仲が良いってことには、なる、のか?  ……あー、良く分かんね。  つーか、オレが、もうそんなのなんだっていいって言ってんのに。  朝トイレに一緒に行った後は、一度も目も合わない。  なんとなく学年に分かれてる感じもあるから、別に不自然ではないけど。  ……何か、欲求不満ぽい。近くには居るのに、奏斗と目が合わないって、なんかすごく嫌だったりして。  ……ってどんだけだ、オレ。ほんの数時間だっつーのに。  里穂に変に思われないように、静かに息をついてしまう。  気分転換しにきたのに、なんか思考が、いまいちだな。  とりあえず、深呼吸。落ち着け。オレ。 (2023/8/5)

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