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第372話「三十分」*大翔
「運動不足がたたる……」
やっと上り終えたところで、里穂が苦笑い。
「大翔くん、あんまり息、あがってないね。すごいなー」
そんな風に言われて、「あーでも、最近あんまり運動してないかも」と返す。返しながら、今度奏斗とバスケでもしようかなぁ……あ、そうだ、真斗の次の試合、明日だったよな……勝てると良いけど。
……なんて、すぐ奏斗のことが、頭に浮かぶ。
「お参りしていこ?」
里穂の言葉に頷いて、鳥居をくぐろうとしたら、里穂が近くの説明を見ながら言った。
「鳥居の前で会釈だって」
「ん」
会釈をしてから、手水舎の水で清めて、参道を通る。お参りの仕方が書いてあって、二人でその通りに進む。賽銭箱の前に立つと、すぐ横に、礼の作法が書いてあった。お賽銭を入れて、書いてある通りにお辞儀と拍手。
手を合わせて、祈る。
何を祈ろうか、なんて思いながら、そこに立ったのに、目を閉じたら自然と浮かんできた願いごと。……祈り終えて、会釈をして、そこを離れる。
ふ、と息をついた時、里穂が隣に並んだ。
「何、お祈りしてた? ……って、話しちゃだめだよね」
叶わなくなりそうだもんね、と笑ってる。そうかも、と笑って返して、頷く。
……叶う叶わないに関係なく、ちょっと人には言えない。
奏斗が、笑ってられるように。
なんて願いが、自然と浮かんだ自分に、今更だけど、少し驚いた。
時間もそんなにないから早めにと宿に戻り、玄関から入った時。
ちょうど、奏斗や相川先輩達が、食堂から教室の方に移動しようとしているところに遭遇。
まだ食堂に居たのか、なんて思いながら、なんとなく奏斗に視線を向けたら、一瞬目があって、でもすぐ逸らされた。
「あれ、どっか行ってたの?」
奏斗よりも後に来た、相川先輩が足を止めて、オレ達に聞いてくる。
「神社に行ってきました」
里穂が答えると、相川先輩は可笑しそうに笑う。
「なんか結構山の上って聞いたけど」
「階段すごかったです。ね、大翔くん、やばかったよね」
「そうだね」
答えると、里穂はオレを見て、楽しそうに笑った。
「でも、大翔くんは全然へっちゃらそうだったけど」
そう言うと、先輩達は、わっと騒ぐ。
「さすがー王子」
「んなことで息なんかあがんないって感じ?」
とか、何だか楽しそうに絡んでくる。
適当に流しながら、話しているけど、奏斗とは目は合わない。
……頑な。だなー。
……つか、怒ってる? とか、ないよな?
里穂と神社行ったんだ、とか、思って……ないよな?
まあ、残念だけど、奏斗がそんなこと思う要素は無いよな。つか、オレがちょっと妬いて欲しいだけか。……なんだかな。
ていうか、なんかオレって。
奏斗と離れてても、頭んなかにずっと奏斗が居るって、今この三十分弱で、嫌と言う程に、思い知った気がする。
皆と合流して、まず部屋に戻って筆記用具を取りに行こうとしていたら、後ろから急にぐい、と腕を引かれた。
一瞬、奏斗?と思ったけど、まあそんな訳はなく。
「佑?」
「ちょっとこっち」
「何?」
「いーから、来て」
引っ張られるままついていくと、少し奥のトイレに入って、鍵を閉められた。宿の出入り口近くにあるからなのか、音楽もかかっている、広くて綺麗な個室だ。他のトイレとはだいぶ違う感じ。……ではあるのだが。何で男二人でこんなとこに。
「……何だよ? トイレに連れ込むとか。何する気だよ?」
ついつい笑ってしまいながら言うと、佑は「ちげーよ」と苦笑い。
「なあ、神社どうだった?」
「ん? まあ。良かったよ、雰囲気も」
「……じゃなくて」
「ん?」
「里穂と。どーだった?」
「どうだったって?」
言葉を繰り返してから、そこで、ああ、と気づいた。
「……そういう意味で、二人、行かなかったのか?」
「そう」
「……変だと思った」
苦笑いで、佑を見やる。
「……神社に普通にお参りして帰ってきただけだよ」
「ふーん。……ぶっちゃけ、大翔にその気はある?」
口で思い切り「無い」というのは少し憚られて、佑と視線を合わせて、少し肩を竦めた。佑も、そっかぁ、とだけ言って、二人で無言。
「……そういえば大翔って、彼女いんの?」
「いない」
「何で? いつから?」
「……まあ、高校ん時はいたよ。何でってことはないけど」
「好きな子は?」
「……」
また視線を合わせて、言葉には出さずに、ニヤ、と笑う。
「……まあ、分かった。さっきのはさ、オレと美優が勝手に気を使っただけだから。もうしないよ。なんか、悪かったな」
「別に、普通に神社にお参りしてきただし。悪くはないよ」
言うと、佑は、頷きながら、ん、と笑った。
「――――……大翔、好きな子いるんだな。意外」
「どーいう意味?」
「んー。なんか、すげえモテてるけど、誰にも本気にならなそうって、実は思ってた」
「……まあ。オレもそう思ってたかな」
「ああ、そうなのか?」
はは、と佑が笑う。
「……それが、どうやら違うみたいで」
そう言うと、佑はふうん、と意外そうな顔でオレを見つめた。
「まあ、本気で恋すると、結構、それまでと変わるよな」
誰だろー相手、とか言いながら、佑はドアを開けた。
「そろそろ行こっか。悪いなー、トイレ連れ込んで。ここなら、誰にも聞かれないかなと思ったからさ」
ん、と頷きながら。
いざとなったら、奏斗をここに連れ込もうかなーとか、考えてるオレは、やっぱ、ヤバいかな。と、少し反省。
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