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第378話「楽」*大翔

「なんか、大翔さあ」 「ん?」 「最近、ちょっと雰囲気変わったな」 「……そう?」  なんだ、急に、と佑を見ると。 「会った頃から王子だなって感じだったけど。見た目それで優しいし、色んな事できるし、モテすぎるし」 「……褒めすぎ」 「なんか最近はちょっと変わった気がして……雰囲気イイ感じ」 「何だ、それ?」 「んー。なんか、ほんと最近、かなあ。前とは少し違うなーって。なんとなく、楽そう?」 「……そーか?」 「うん。なんとなくな」 「それは、良い意味?」 「うん。良い意味。オレ、今の方が自然に話せるかな……あ、いや、別に今まで話せてなかった訳じゃないけど」  なんかオレ変なこと言ってる?とか言って、焦ってる。 「……人見知りで緊張してたのかもな?」  と言うと、いや、お前は絶対人見知りじゃないだろ、と即ツッコミを入れられる。  ……なんとなく。  奏斗といるようになって。  奏斗が、素のオレに、そっちの方が良いって言うようになってから。  そう言えば。前ほど、人に合わせてばかりではなくなったかもしれない。  まあ、染みついた外面の良さは、そう簡単には消えないし、正直どこからどこまでが本気かも自分でも分からなくなってたオレだけど。  あー……江川には、素よりもむしろ態度悪くなってる気がしなくもないが、あいつのせいもあって奏斗たち別れてるから、ちよっときつく当たってるかも?  ……まあ、なんにしても、奏斗と居るようになってから。  楽だよな、オレ。 「――――……」  ……あーなんか。奏斗に触りたい。    そこに、最初に風呂に入りに行ってた三人が戻ってきた。 「温泉良かったぞー」 「あ、いいですねー」  佑が応えてる。 「風呂、三人じゃなくて、まとめて入ってもシャワーだけ交換こすれば、行けるよ」 「もう先輩たちの次の人達は入ってます?」 「今入ってるよ。湯舟は広いから、十人位居ても入れそうだったぞ」 「去年とか入ってないんですか?」 「改装したんだってさー広くなってた」  そんな会話をしてから、佑がふと、オレを見た。 「じゃあ、オレ達の三人と、大翔たち二人、一緒入ってもいいんじゃない?」 「……だな」 「そうしよっか」  佑が言うと、今出てきた先輩達が、「そしたら少し長く湯舟入ってられるかもよ」とさらに後押ししてくれた。  いいぞいいぞと心の声。  これだと、オレが無理やり変えたんじゃねーから、奏斗も何も言わないだろ。 「先輩達帰ってきたら言ってみよ」 「そうだな」    頷くと、あ、と何か思いついたらしい佑がオレを見て、クスクス笑う。 「何?」 「……それに、良かったよね、ユキ先輩、守れるから」  ぷぷ、と笑いながら、そんな風に耳打ちしてくる佑。  絶対、本気でそう思ってるとかじゃなくて、冗談じみた感じで言ってるのは分かるので、そーだな、とだけ答える。  ……つか、「それに良かった」とか。そっちがついでみたいな感じじゃない。  もうそっちだけしか考えてないというか。それだけ考えてたというか。  別にここの風呂で、奏斗が何かヤバい目にあうなんては思ってないけど。さすがにそれはないだろうとは思っているけど。  ……奏斗の裸、見せるだけでも嫌だ、とか思ってるだけだ。  ただの激重い独占欲っつーのは、自分でも分かってる。  その後、売店から帰ってきた奏斗達に、オレと佑が言うまでもなく、先輩らがうまい具合に伝えてくれて、結果、最後の二組、オレ達五人は一緒にゆっくり入ってこようってことになった。  奏斗も、オレが言ったんじゃないので、特に反対するわけではなく、そうなんですね……とか言って頷いてたけど。話し終わった時、ふ、と後ろに居たオレを振り返った。  別にこの話オレ発信じゃないし。と、すっとぼけて、奏斗と目を合わせてたら。むー、とオレを軽く睨んでから、目をそらして、ふーとため息をついてる。  別にこれはオレのせいじゃないもんね、と思いながらも。  ……なんかこんな感じでも、やっぱり目が合うと嬉しいとか、結構重症な気がする。

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