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第387話「調子に」*大翔

 ふと、奏斗が下から見上げてくる。 「ん?」  聞くと、何か少し、困った顔をしながら、言いにくそうに言ったのは。 「つか……オレだけして、お前、は……?」  つか、ほんと、ため息をつきたくなる。  人の気も知らないで、ほんと、この人は。 「オレ、これ以上したら、最後までするけどいいの?」  そう言ったら、めちゃくちゃ眉を顰めて、プルプル首を振ってる。 「大丈夫、少し収まってきたから」 「…………」 「つかさ……煽らないでよ」  苦笑いで言うと、奏斗は、そんなつもりじゃないし、とぶつぶつ言ってる。 「大丈夫。我慢する。明日は帰れるし」  明日帰れたら、触るし。  その意味を込めて言ったら、すぐ伝わったみたいで、カッと赤くなる。 「っていうか、オレ……今、ほんとに怒ってるんだからね」  むう、と何やらほんとに怒った顔は、してる。  ……可愛いけど。 「ん。ごめんね。さすがに、悪かったと思ってる」 「つかさ。二人が開けてって言ったら、どうするつもりだったんだよ」 「なんとか、開けないように適当に話したと思うけど」 「……もう。ほんと、信じられない」  奏斗は、体の熱が引いて少し冷静になってくるとともに、怒りがふつふつと沸いてきてる、みたいな感じがする。  まあ怒られても仕方ないこと、したけど。確かに。 「ごめんね。怒んないでよ」  そう言って、奏斗と見つめあうけど。  めちゃくちゃムッとした顔をして、それから、はー、と息をつく。 「……あー、やっぱ無理」 「え?」 「ドア一枚んとこに、二人が居たとか。もう……ほんと無理」  ……まあ、オレもそれはかなり驚いたけど。  我慢してる奏斗、可愛かったなーとか今浮かんだことを言ったら、本気で殴られそう。 「オレ、先戻る。……収まってから、来いよな」 「当たり前でしょ」  苦笑が浮かんでしまうと、奏斗は、キッとオレを睨んだ。 「……もう、ほんと、意味分かんない、こんなとこで」 「うん、ほんとごめん。もうしない」  もうしないも何も、明日で帰るんだから、これ言っても意味ないなと自分も思ったが。案の定、奏斗をさらに怒らせたような。 「当たり前じゃん、もう……!」 「だからごめんねって」  もう一度引き寄せて、抱き締めると同時に。 「ごめん、オレ、調子に乗った」  そう言ったら。 「? 何で調子に乗ったんだよ?」  そう聞かれた。オレは抱き締めた奏斗を少し離して、奏斗を見下ろした。 「奏斗が、神社がどうとか言うからさ。ヤキモチ、かなーと思って」 「だから……っちがうし! そんなこと思ってないし!」  …………。  そんな慌てられると、可愛くてしょうがないのだが。 「もうとにかく、ほんともう……馬鹿宮の馬鹿宮……!」  小学生か、みたいなことを言いながら、奏斗はドアのカギを外した。  会話してる間にもう大分収まってきてたので、オレも一緒に戻るよと言おうとしたら、奏斗がドアを開けたまま目の前で固まった。 「?」  オレも一歩進んだら、ちょうどそこに、椿先生が見えた。

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